こころの風邪、うつを生きる。
患者さんにとって最も重要なのは、おそらく「この苦しみから一刻も早く解放してほしい」ということでしょう。
ご安心ください。自分がよくある「こころの風邪」をひいたのだ、自分が悪かったのではないのだ、ということさえ認識できたなら、よく効く治療法がいろいろあります。
基本は、休養と薬の同時並行です。風邪の時と一緒ですね。
休養が必要なのは、前のページで述べた「ぐるぐるの思考回路」からいったん逃れ、気力を取り戻すためです。職場などに迷惑をかけるから休めないと思ってしまうかもしれませんが、その分は作業の能率が以前のように戻ってから返せばよいこと。困った時はお互い様ではないですか。
メインとなる抗うつ薬は、神経伝達物質(働きはコラム参照)のセロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンが脳内で分解されるのを妨害し、結果としてそれらの不足を補います。いろいろな伝達物質に一度に効いて効き目も副作用も共に強いタイプと、特定の伝達物質だけに効いて副作用が軽いタイプとがあります。最初は後者から使われることが多いはずです。
また別に、感情の起伏を抑えたり、不眠症状を改善したりするための薬も使われます(左表)。
重症で緊急に治療を要する場合には、頭に通電する療法を行うこともあります。全身麻酔下で行いますので、苦痛も危険もほとんどありません。
注意が必要なのは、これらの治療でいったん症状がよくなったからといって、性格など、うつ病を起こしやすい素地まで変わったわけではないことです。油断するとすぐに再発します。少し気長に服薬を続けましょう。また、気分変調症と呼ばれるような症例では、なかなか薬で良くならないこともあるので、その場合は周囲の人にも協力してもらってのカウンセリングなどが必要になります。
こころの動きは物質に左右されます。 脳の神経細胞と神経細胞との間には、毛髪の1万分の1ほどのわずかな隙間があり、その間を神経伝達物質というものが行き来することで信号が伝わっていきます。信号が伝わることを、神経が興奮すると表現することもあります。 神経伝達物質は数十種類あり、それぞれに役割が異なります。代表的なものが、「ドーパミン」や「ノルアドレナリン」「セロトニン」、それにアルツハイマー病になると減る「アセチルコリン」などです。神経伝達物質の量が多すぎても少なすぎても、神経の働きが正常でなくなるので病的症状が現れます。うつ病は、「ノルアドレナリン」や「セロトニン」が不足すると起きます。 抗うつ薬は、いったん神経の端から飛び出した伝達物質が元の神経に戻るのを妨げることで、神経伝達物質が減りすぎないようにしてくれます。 ちなみに「ノルアドレナリン」「セロトニン」は、チロシン、トリプトファンというアミノ酸から体内で合成されます。これらを多く含む食品は、牛乳・乳製品、肉類、魚類、大豆製品などです。