腸内の善玉菌 うつ病だと少ない~それって本当?
心のバランスを崩している時は、腸内細菌のバランスも乱れているようです。
専任編集委員 堀米香奈子(米ミシガン大学環境学修士)
ヒトの腸内に棲むビフィズス菌や乳酸菌は、整腸作用や腸管免疫賦活作用などが確認され、一般に「善玉菌」と呼ばれます。この善玉菌は近年、善玉菌と精神疾患の関連性でも注目されるようになり、うつ病患者は腸内の善玉菌の数が少ないことが報告されました。
国立精神・神経医療研究センター神経研究所とヤクルトの共同研究で、大うつ病性障害患者43人と健常者57人の便に含まれるビフィズス菌と乳酸桿菌(乳酸菌の一種)の菌数を比較したところ、うつ病患者群の方が、ビフィズス菌の菌数が統計学的有意に(偶然と言えない頻度で)低く、乳酸桿菌は減少傾向が見られたのです。また、うつ病患者群と健常者群の間で差があると仮定して境界値を設定、比較したところ、ビフィズス菌・乳酸桿菌とも有意に、うつ病患者が境界値の下、健常者が境界値の上に多く含まれることも確かめられました。(グラフ)
先行研究では、過度のストレスでうつ病様行動を示す動物で腸内の乳酸桿菌が減少する一方、乳酸桿菌やビフィズス菌を経口投与すると、ストレス耐性が高まることなどが観察されています。
このため「今回の解析結果から、腸内のビフィズス菌や乳酸桿菌が少ないことは、うつ病の原因の一つと考えられます」と、研究を牽引した国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第三部の功刀浩部長は話します。
腸脳連関
腸は〝内なる外界〟で、約4万種類の腸内細菌100兆個(重量にして1~2㎏)が棲みつき、食物からの栄養素の吸収や、ビタミンやタンパク質の合成、体外からの病原菌の侵入防止など、私たちの生命活動に必須の役割を担っています。
そしてその腸内と脳は、神経系やホルモン、サイトカインなどの共通の情報伝達物質を介して双方向的なネットワークを形成し、密接に影響しあっていることが分かってきています。「腸脳連関」と呼ばれます。
例えば、ストレス状態では交感神経が活性化、放出されたアドレナリンやノルアドレナリンを大腸菌が感知し、増殖が活発化したり、病原性が高まったりすることも報告されています。
また、腹痛や下痢、便秘、腹部不快感が長期にわたって続く過敏性大腸症候群は、精神的なストレスと腸内細菌叢の乱れが悪循環していると考えられており、その患者は、障害のうち何らかの精神疾患にかかる割合が高いことが知られています。
その予防や治療の方策として有効かもしれない、と考えられているのが、善玉菌の投与やプロバイオティクス(生きた善玉菌や、それを腸に届ける食品)の摂取です。例えば、健常者を対象とした研究に限られるものの、怒りや不安、うつ状態といった精神・身体症状に対し、ビフィズス菌や乳酸菌の投与やヨーグルト摂取などプロバイオティクスの効果が報告されています。
「腸脳連関は、うつ病の発症原因の一つと見られており、特定の善玉菌のうつ病に対する効果についても、研究が進められています」と功刀部長。ただ、「そうした腸内細菌を直接摂取しないでも、善玉菌の餌となる食物繊維をしっかり摂るなど、腸内細菌叢のバランス調整に役立つ方法はあります」とも話します。
心が調子悪いなと思ったら食生活を見直してみる、なんてことが有効なのかもしれませんね。