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めざせ健やか視生活!眼を長持ちさせよう。

血管が傷み酸欠を起こす糖尿病網膜症。

 まず最初に説明するのは、日本で年に4千人が失明すると言われる糖尿病網膜症です。文字通り、糖尿病が原因で起きる網膜の障害です。
 糖尿病については06年1月号でも取り扱いましたが、少しだけおさらいすると、血中の糖分を細胞に引っ張り込む働きが衰えるため、血液中の糖濃度(血糖値)が高くなるのでしたね。血糖値が高くなると、過剰な糖分が血液中のたんぱくと結合して血管の壁をボロボロにするので、特に毛細血管が次々に破れたり詰まったりしてしまうのでした。
 先ほど、網膜の中と裏に毛細血管が密集していると説明しました。最初に起きる障害は、この網膜内の毛細血管にコブができたり、網膜の中に出血(眼底出血と呼びます)したりするもので、この段階を「単純網膜症」と言います。糖尿病になってから、10年から20年程度で起きる場合が多いようです。
 視野の中心である黄斑部で出血が起きればすぐに気づきますが、通常は周辺部から障害が起きてくるため、ほとんど自覚症状がありません。
 この毛細血管の障害があちこちに広がり、さらに毛細血管が詰まると、網膜の中で血の届かない部分が出てきます。次の「増殖前網膜症」という段階です。網膜は多くのエネルギーと酸素を必要としていますので、酸素不足になった細胞が、新しく血管を作らせようと血管新生促進物質を放出し始めます。
 新しく血管ができるなら良いことのように思えるかもしれませんが、大いなる勘違いです。
 網膜は神経細胞がギッシリ詰まっているので、新しい血管が入り込む余地がありません。結果、無色透明であるべき網膜の表側や硝子体の方に血管ができてしまいます。しかも、このような緊急避難的にできる新生血管というのは出来が悪く、すぐに破れるのです。
 硝子体に出血すると、視界に黒いススのようなものが飛んだり雲がかかったようになったりして、出血を繰り返す度に段々見えなくなり、やがて失明します。
 ここでたとえ視力が残っても出血を繰り返すうちに、増殖膜というものが網膜の表側に張り付くようになります。こうなると最後の段階の「増殖網膜症」です。増殖膜は段々縮むもので、一緒に網膜もくっついて眼底から剥がされ、完全に失明してしまいます。この状態が網膜はく離(コラム参照)です。
 いかがですか。恐ろしいですね。このような事態に陥るのを防ぐには、まず病気本体である糖尿病をしっかりコントロールすることが大切です。しかし網膜症が進んでしまった場合、眼だけについて以下のように治療することがあります。
 まず、毛細血管が潰れ出した頃に行うのが「網膜光凝固療法」です。酸素不足になった細胞が血管を作らせるのなら、いっそ、その細胞をレーザーで焼き殺して新しい血管を作らせなくしてしまえという、コロンブスの卵的発想の療法です。網膜の細胞を焼いたとしても、黄斑部でない限り視力には関係ないので、このような療法が成り立ちます。入院する必要はありません。
 硝子体出血や増殖網膜症の場合、硝子体を取り除いて代わりに液体や空気を入れて視力を取り戻す方法があります。ただし、手術が成功しても視力回復が十分できないことが多く、糖尿病は初期から眼科的管理が重要です。早期には自覚症状がありませんから、内科で糖尿病と診断されたら、必ず眼科的検査も受けましょう。

網膜はく離は直後なら治ります。  眼底から網膜がはがれてしまうのが「網膜はく離」で、はがれた部分の視野が失われます。ただし、はがれた直後に手術で元の位置に戻せば、視力が取り戻せる場合も多いです。糖尿病以外に、硝子体の老化、打撲などが原因になります。虫や糸くずのようなモヤモヤしたものが宙に浮いて見えたり(飛蚊症)、暗いところでも光をキラキラ感じたり(光視症)したら、要注意。早く受診しましょう。

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