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救急たらい回し なぜ起きるのか

引き受け側はなぜ断るの?

 では、いよいよ「たらい回し」の実態を見ていくことにします。
 救急医療情報システムが完璧には機能していないことを前項で指摘しました。つまり、救急隊は引き受け可能なはずの医療機関に打診しているのに、実際にはよく断られるわけです。なぜこんなことが起きるのでしょうか。
 まず、最もシンプルな理由は、消防へ伝えられる情報がリアルタイムに更新されるわけではないことです。患者が運ばれてきて診察もしていない段階で、真っ先に消防へ「診療余力がなくなった」と伝えろというのは無理な話です。だから、情報上は引き受け可能なはずなのに、実際は既に別の患者を診ていて引き受けられないということが、忙しい時ほど起こります。
 診療余力があったとしても、医療機関側が断ることはあります。その際に理由として挙げるのは、主に「専門科の医師がいない」か、「ベッドに空きがない」か、です。
 どちらも患者側からは釈然としない言い分ですが、具体的にどういうことを意味しているのか、見てみましょう。
 前者の「専門科の医師がいない」は、特に初期・二次機関の夜間帯に多く見られる現象です。
 救命救急センターや救急専従医を置いているところを除けば、医療機関では通常、日中の勤務を普通に終えた医師がそのまま夜間当直を行い、そして次の昼間も勤務に就いています(夜間の人数が足りない場合、アルバイトの医師を雇います)。診療全科の医師に毎日当直させると、全員が過労で倒れてしまいますので、診療科ごとにローテーションすることになります。結果として、夜間は対応できない科ができるわけです。
 なぜこんな運用になっているのか、そもそも救急なのだから専門の医師でなくても応急的に何とかならないのか、という疑問が当然出てくると思います。これについては、次項で改めて考えます。
 医療機関が挙げる理由のうち後者の「ベッドがない」は、三次機関への「病院間搬送」など、深刻な場面でより多く聞かれます。
 「ベッドがなければ、ソファでも何でも構わないではないか」と思ったでしょうか。
 しかし、医療は寝る場所だけあれば済むというものではありませんね。例えば、どうしても個室が必要な状態のように、患者の症状や重症度に対応できる設備とスタッフが必ず存在しているとは限らず、その場合は「ベッドに空きがない」となってしまうのです。
 「たらい回し」と言っても、医療機関がサボった結果ではないことが、何となくお分かりいただけたでしょうか。
 医療機関ごとに、ある一定時間に引き受けられる能力(診療分野や重症度、人数)があらかじめ決まっており、それを超える分は引き受けられない、というごく当たり前のことに過ぎないわけです。
 とはいえ、「たらい回し」が起きている以上、救急医療の需要に対して供給が足りないか、あるいはミスマッチが起きているのは間違いありません。とすれば、「救急医療需要の抑制」、「その供給能力の増強」、「ミスマッチが起きないような調整の仕組み」の3つが必要なことは誰にでも簡単に分かることです。
 これが、言うは易く行なうは難し。次項では、その理由を見ていきましょう。

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