救急たらい回し なぜ起きるのか
急に体調が悪くなって救急車を呼んだのに、受け入れ先の病院が決まらないまま時間だけが経過......。
こんな「たらい回し」の話をよくテレビや新聞で目にすることと思います。
一体何が起きているのでしょう、どうすればよいのでしょう。
監修/前川和彦 関東中央病院院長
受け入れ病院は電話で決まる。
話を理解しやすくするために、まずは現行の救急医療がどのような仕組みでできているか、おさらいしましょう。05年10月創刊号でも紹介しましたが、我が国の仕組みは世界的に見るとかなり特殊なものです。
入院の必要のない軽症の患者は最寄りの医療機関へ(初期救急)、入院の必要がある患者は一定の設備がある医療機関へ(二次救急)、生命の危険があり複数の診療科が連携して治療に当たらねばならない患者は人員・設備の整った中核施設へ(三次救急)という、3段階ピラミッドの構造だったのでしたね。
さて、ここからが本題です。救急車が患者を運ぶのには、患者発生場所から医療機関へ運ぶいわゆる「搬送」と、ある医療機関では手に負えなくなった患者をより高度・専門的な医療機関へ運ぶ「病院間搬送」の2種類があります。
いわゆる「搬送」の場合、現場へ駆けつけた救急隊員(救急救命士)は応急の救命処置を行うことはできますが、本格的な医療行為をすることはできません。なので、患者さんの状態がどの段階にあたるか検討・判断し、その状態にふさわしい医療機関を、搬送に要する時間なども考慮しながら探します。この一連の行為を「トリアージ」と言います。多くの場合は患者を救急車に収容し、車を走らせながらの作業になります。
「探す」と抽象的に書きましたが、要は引き受けられそうな近所の医療機関へ電話をかけ、患者の状態を伝えて打診する、ということです。
医療機関側ごとに、「引き受けられる」と答えれば、そこまで運んで救急車の仕事は一件落着ですが、医療機関側が断ると他の医療機関を探さねばなりません。これが、いわゆる「たらい回し」です。
医療機関が、どの科が治療可能か入院可能かといった情報を随時、消防へ知らせる「救急医療情報システム」という列車の空席照会システムのようなものは地域ごとにあります。けれど次項で述べるような理由から、完璧に機能しているとは言えません。結果として、現状では担当者が電話をかける順番によって医療機関への到着時間が相当左右されます。
「病院間搬送」の場合、受け入れ先の医療機関を探すのは、送り出す側の医療機関です。患者の状態を先方に詳しく伝えないといけないため、治療にあたっている医師自ら、治療の合間に電話するようなこともよくあります。