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救急受け入れ不能の理由、「実は分からない」 ─ 厚労省

坂本すが委員0930.jpg 救急患者の受け入れ状況を改善するため、厚生労働省は「ベッド確保策」に意欲を見せている。総務省消防庁と厚労省の調査では、受け入れ不能理由で最も多かったのは「処置困難」、次いで「手術中・患者対応中」「ベッド満床」などの順。これらの具体的な内容について厚労省の担当者は、「実は分からない」と答え、「ベッド満床」を解消する方針を強調したが、果たしてそれでいいか。(新井裕充)

 2010年度の診療報酬改定に向け厚生労働省は9月30日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=遠藤久夫・学習院大経済学部教授)の基本問題小委員会で、周産期医療と救急医療の診療報酬上の評価について「論点」を示した。

 周産期医療の「論点」を要約すると、▽NICU(新生児集中治療室)の評価 ▽合併症ある妊婦の受け入れ ▽NICUの退室支援 ▽地域連携 ▽ハイリスク分娩管理加算の要件緩和─の5点。
 救急医療の「論点」は、▽積極的に受け入る医療機関の評価(入り口の問題) ▽退院患者の紹介加算(出口の問題) ▽受け入れの実績評価─の3点。 

 同日は、まず厚労省保険局医療課の佐藤敏信課長が資料について説明。これまで何度も示した資料であるにもかかわらず、いつもの長い説明が続き、予定した1時間半の審議時間のうち約40分間がつぶれた。
 周産期医療に関する資料説明の中で佐藤課長は、母体や新生児の救急受け入れが進まない理由として、ベッドが満床であることを繰り返し強調、NICU(新生児集中治療室)など「ベッド確保策」を優先する意向を示した。

 これに対して、日本看護協会副会長を務める坂本すが専門委員は、救急患者の「出口」をめぐる問題について次のように述べ、退院支援を評価する必要性を指摘した。
 「(出口の問題は)やはり家族の受け入れ不能ということを感じていた。(入院中の)早期に家族とかかわっていくことによって成功している病院もあるので、そういうところを(診療報酬で)厚くしていくというのが大事だと思う」

 また、「入り口」の問題については次のように質問した。
 「受け入れに至らなかった理由の件数の中に、ドクターの手術中とか、患者対応中というのがあるが、これはどういう患者さんを対応されていたのか。例えば、分娩であったのか、何らかの医療事態があったのか。もし、これが手術中、患者対応中で受け入れられないということなら、患者さん、国民から見れば『受け入れられない』ということをいつも不安に思っていなければいけない。『ベッド満床』は、何らかの形で退出をサポートしていくということと、もう1つ、『入り口』のところで、『受け入れる対応』というのをどのように改善していくのかということが大変重要だと思うので教えてください」

 総務省消防庁と厚労省の調査によると、「重症以上傷病者」の受け入れができなかった理由のトップは「処置困難」、次いで「手術中・患者対応中」、「ベッド満床」などの順で、産科・周産期傷病者も同様だった。
 佐藤課長が強調する「ベッド満床」は上位ではなく、この傾向は「小児傷病者」でも「救命救急センター等搬送傷病者」でも同じだった。

 坂本委員の質問に対し、佐藤課長は「結論から言いますと、実は分からないんです」と回答、次のように説明した。
 「この調査は消防庁が何年かにわたって継続して行っている調査で、消防庁が消防庁独自の調査項目を設けて調査しているもの。もっと具体的に申しますと、各消防隊員、救急隊員が患者さんの搬送を担当して、『受け入れがなかなか難しかった』という場合に、どの項目に該当するのかを個々の救急隊員等が個人の主観的な判断でやっております」

 佐藤課長はこのように、医療機関の受け入れ状況の実態は救急隊員の「主観的な判断」であり、客観的な状況を示すものではないことを指摘した上で、次のように続けた。
 「そういう意味で言うと、救急救命士のように専門的な方もいらっしゃいますけど、必ずしも医学、医療の専門家でない方が看護師さんや、あるいはそこで応対したお医者さんに聞いて、『なぜ駄目なんですか?』、あるいは電話で『なぜ受け入れ駄目なんですか?』という受け答えがあったときに、救急隊員や救急救命士が自分の判断で、『これは手術中』『患者対応中』とチェックをしているので、本当のところはなかなか分かりません。私どもがこのデータだけ見て対応できるものは、『ベッド満床』の辺りかなということで、こういう『ベッド満床』を改善するような方策なら、このデータからでも対応できる」

 このように、佐藤課長は周産期・救急患者の受け入れが進まない理由として「ベッド満床」に焦点を当てている。しかし、同日の質疑で、坂本委員は「入り口」から「出口」までのスムーズな流れをつくるための体制について何度も質問した。
 坂本委員の質問は、看護師配置の評価を明確に訴えるものではなかったが、「トリアージナース」や「退院調整看護師」など、周産期・救急医療で看護師が果たす役割を診療報酬上で評価すべきとの意向がうかがえた。佐藤課長の資料説明、坂本委員とのやり取りは次ページ以下を参照。


 【目次】
 P2 → 「医師が多ければ受け入れ先が決まるわけでない」 ─ 厚労省
 P3 → 「受け入れ対応の改善が大変重要」 ─ 日看協


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