文字の大きさ

過去記事検索

情報はすべてロハス・メディカル本誌発行時点のものを掲載しております。
特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

それって誰が得するの? DPC

どう付き合えば いいの?

 前項で述べたことのうち、「効率的」と「質の高い」が両立するものだろうか、と疑問に思った方がいるかもしれませんね。
 まさにこの部分こそ、DPC制度が患者にとってありがたいものとなるか否か、の分岐点です。
 急性期入院した患者にとって望ましいのは、できるだけ苦痛少なく順調に回復し、一日も早く退院を迎えられることのはず。医療行為は大抵患者に何らかの苦痛を伴いますし、また心身の状態が悪化するとそれだけでも患者は苦痛を感じます。一度も状態が悪くなることなく、余計な医療を受けることなく、というのが、患者にとってありがたいわけです。
 これをDPC制度適用の医療機関から見ると、どうでしょう。医療行為が少なければ、経費は安くなり利益が大きくなります。でも患者の状態が悪化したなら、手を打たないわけにはいかず経費が増えていきます。さらに回復が遅れれば、入院期間も延びざるを得ません。これもありがたくない話です。
 つまり、患者の状態を良好に保ったまま回復させること、悪化したとしても素早く手を打って軽症にとどめることが、医療機関にとっての利益にも適う理屈です。患者と医療者とが、共通のルートで共通のゴールをめざせるわけです。
 自己負担分として、受けてもいない医療費を払わせられるのは納得いかないと思う方もいるかもしれませんが、DPC制度適用の入院は、大部分が高額療養費制度の対象となって払い戻しがあります。実際の額は出来高払いだろうが包括払いだろうが大して変わらないはずです。
 これだけ読めばバラ色の制度ですね。しかし、順調に回復しなかったとしたらどうでしょう。患者が苦しいのはもちろん、医療機関にとっても収益を圧迫されることになります。体力や体質など患者の背景事情は千差万別です。疾患が同じだからといって、すべての患者が同じような期間に同じような医療行為を経て回復するはずはありません。
 医療機関から見て、順調に回復しそうな患者の方がありがたく、手間のかかる患者、状態の悪化しそうな患者、入院の長引きそうな患者は、ありがたくないこと、お分かりいただけるでしょうか。
 もう少し細かいことを言うと、DPC制度が入院のみ対象のため、入院して受けた方が楽な検査や投薬を、出来高払い適用の外来で受けさせられる例は確実に増えています。入院が長引いた場合に、強く退院・転院を求められかねないことも想像がつくと思います。
 実際には医療者たちのモラルはまだまだ高く、また収益をあまり考えず診療にあたっていることが多いので、実害はあまり起きていないはずです。しかし、今後も起きない保証はありません。
そもそも制度の狙いが「患者利益の最大化」ではなく、「国民利益のための医療費抑制」です。患者のためといって赤字ばかり出していたら医療機関も潰れてしまいます。
 私たち自身が、健康保険の費用負担者として、また有権者として、この制度が悪い設計にならないよう、より良い設計になるよう物申すことはできますので、この言葉に関心を持っていただければ幸いです。

入院期間短縮の効果 実は、あまりなし?  制度の想定では、在院日数を短くすると年間の入院患者総数を増やせるので、入院初期の高い診療報酬の受け取りも増えて病院が得をするはず、でした。これにより、どんどん平均在院日数が短くなるだろうとのもくろみです。  しかし実際には、病院の支払う「原価」の大部分を薬や器具などの「材料費」が占めるような内科系疾患の場合、かかる材料費も入院初期に集中するため、入院後期の方が1日あたり利益の大きいことがよくあります。こうした疾患の場合、スタッフは前年より忙しく働いて平均在院日数を短縮したのに、利益は減ってしまうという逆転現象が起こります。  このためDPC制度には、平均在院日数を減らす働きはそれほど強くないとの見方も出てきています。


  • MRICメールマガジンby医療ガバナンス学会
掲載号別アーカイブ