それって誰が得するの? DPC
今回のテーマは、入院時に支払う治療費に関連するもの、です。
訳の分からない横文字と思って無関心でいると、
そのうち損をするかもしれませんよ。
監修/今村知明 奈良県立医科大学教授
中村利仁 北海道大学大学院助手
一体何なの?
毎度同じことを書いている気がします。なぜ医療の世界では横文字ばかり使われるのでしょう。しかも輸入語ならともかく、これの場合、日本特有の制度に基づく「和製英語」です。
とはいえ入り口で怒っていても話が前へ進まないので、いつものように語義を説明してしまいましょう。もともと病気の分類手法を表したに過ぎない言葉のため(コラム参照)、訳しただけでは何だか意味が通じません。
実は現在では「DPCによる包括払い制度」全体も、注釈なしの「DPC」一語で示すようになっています。この特集も取り扱うのは制度に関してですが、紛らわしいので、以後は「DPC制度」と表記することにします。
この「DPC制度」が何を指すか平易に表現すると、どんな医療が行われようが、ついた病名によって支払われる診療報酬が決まっている、そんな制度ということになります。
このような言葉が存在する理由は、行った医療行為の分だけ支払われる「出来高払い」(05年12月号「診療報酬特集」参照)の診療報酬制度が一般的だったから。
携帯電話の従量制と定額制の違いを思い出してもらえば、イメージしやすいかと思います。ただし、携帯電話などの場合、どれだけサービスを利用するかはユーザーの裁量ですが、医療の場合は何をどこまで提供するか決めるのは、医療機関側の裁量(もちろん患者へ説明のうえ)です。
DPC制度自体は、2003年4月に特定機能病院から適用が始まり、基幹病院に順次広がってきたものなので、ここ4年ほどの間に入院した方は既に体験しているかもしれません。
現在のところDPC制度は、その適用を希望した医療機関の一般病床への入院(急性期入院)について、1日あたり定額払いという運用になっています。ただし、DPC制度に手を上げない医療機関は、いずれ入院基本料(06年12月号「診療報酬特集2」参照)を引き下げられるのでないかとの憶測が飛び交い、適用を希望する機関は増える一方です。
DPCを訳すと、こうなります。 DPCは「Diagnosis Procedure Combination」の頭文字。「Diagnosis」は「診断」、「Procedure」は「手順」とか「行為」、「Combination」は「組み合わせ」のことで、一般的には「診断群分類」と訳されます。この分類ごと診療報酬を定額にしたのが「DPCによる包括払い制度」。 制度の見本にしたのは米国発祥の「DRG/PPS」(Diagnosis Related Groups/Prospective Payment System)。「DRG/PPS」が疾患別の1人入院あたり定額払いであるのに対し、「DPC」は疾患と医療行為の組み合わせに対する1日あたり定額払いと、微妙に設計が異なります。07年5月末現在でDPCの分類は2347あり、そのうち1438が包括払いの対象になっています。
診療報酬は前年実績で決まる。 DPC制度でも、実は入院から退院までの全部が定額ではありません。入院基本料、検査料、投薬料、薬剤料など患者によってあまり差が出なさそうな「ホスピタルフィー」部分は定額で、手術料や麻酔料、リハビリテーション料など患者ごとにカスタマイズが必要な「ドクターフィー」部分は出来高に応じて支払われることになっています。 定額部の診療報酬額は、医療機関が適用を受けたことで不利益を被らないよう、各機関の前年実績を参考に微妙に異なる金額に設定されています。ただし、これだとコスト削減に努力した医療機関が報われないこともあり、いずれどの機関でも同じ額になると見られています。