一体何なの? カルテ
カルテは専門家どうしの連絡簿として発展してきたため、専門家が見れば分かる必要最低限のことしか書かれて来ませんでした。卵が先か鶏が先か、診療録の記載法や書式について、大学や病院で体系立った教育も行われていません。
一方で臨床医たちは、次々と診療に訪れる患者、あるいは24時間刻一刻と状態の変わる患者の応対に追われ、カルテ書きが二の次になりがちです。結果として、一部の人のみ分かるメモのようなカルテが普通に残されていくことになります。
それで後から困らないのかと思うかもしれませんが、特に主治医制を敷いている医療機関では、不明点がある場合、書いた本人に問い合わせが来るので大して問題にならないのです。
ですが、こうしたカルテは患者や家族が見ても、さっぱりわけが分からない代物になります。
患者の身体情報が医療機関のみに帰属するものなら、敢えて問題にする必要はないのかもしれません。しかし時代の変化とともに、患者の診療情報は患者に帰属し、患者自らが利用できるようにするという考え方(コラム参照)が一般的になりました。
現在は、医療機関ごとにカルテがあって、しかもその形式が機関限定であるため、患者が医療機関を変わるとき、紹介状に記載された以外は情報がなかったことになります。ひどい場合には、同じ医療機関なのに診療科ごとにカルテがあって、互いにその存在を知らないことすらあります。
これでは、患者の身体情報が有効に活用されているとは言えません。
さて、どうしたらよいのでしょう。
理屈では、全医療機関で書式を統一して、一つの医療行為を行うごとに、きちんと医師にも統一書式で書かせればよいということになります。しかし、統一と教育にかける初期コスト、医師の労働時間をさらに増すことになる日常コストを考えた場合、机上の空論でしかありません。
だったら医療行為を行うと同時に自動的に記録が残っていくよう、コンピュータを使ったら? というのは誰もが考えることだと思います。社会はIT革命によって激変しました。それを医療機関にも応用するわけです。
その考え方の延長にあるのが「電子カルテ」です。厚生労働省も06年4月の改定で診療報酬に「電子化加算」(初診料に3点プラス)を設けるなど、電子化の流れを推進しています。しかし展望が開けたかというと、そんなこともありません。
もちろん世の中の事象すべてについて、メリットしかないということはあり得ないのですが(表参照)、電子カルテがうまく機能して、関係者が大喜びしているという医療機関は全国でも数えるほどしかないのです。なぜ電子カルテがうまく機能しないのかの問題については、改めて特集として取り扱います。
皆さんも、自分のカルテがどんなものだったら嬉しいか、考えてみていただけると幸いです。
個人情報保護法で開示は義務づけに。 05年4月の個人情報保護法施行により、患者本人から請求があった場合、医療機関はカルテを開示しなければいけなくなりました。 自分のカルテを見たいと思ったら頼んでみる手はあります。ただし医療機関にとっては日常業務以外の負担が増えることになるので、あくまでも丁重に頼みましょう。また、コピー代などの実費は必要です。