備えよう新型インフルエンザ
前項で新しいウイルスが発生すると書きました。当然のことながら、何もない「無」から、いきなり出現するわけではありません。
インフルエンザの場合、鳥や豚にも感染できます。ただし厳密に言うと、どの種にも容易に感染できるというわけではありません。たとえば鳥のウイルスがヒトにどんどん感染するには、そのような能力を突然変異で獲得する必要があります。また、鳥からヒトに感染したウイルスが、ヒトからヒトへと感染するにも、その能力をヒトインフルエンザから受け継ぐか突然変異するかして獲得する必要があります。
このように、鳥や豚のインフルエンザウイルスが突然変異を起こして、新型インフルエンザウイルスになるのです。鳥インフルエンザが発生すると大騒ぎになるのは、こういう事情です。
何だハードルが高いじゃないかとは、思わないでください。既に03年から鳥インフルエンザのヒトへの感染はタイやインドネシアなど各地で確認されていて、しかも死亡者が相次いでいます。ヒトからヒトへの大規模感染が確認されていないだけなのです(現在はフェーズ3=〓表参照、07年11月末現在)。そして、このヒト→ヒトの大規模感染が起きた段階で、新型インフルエンザ発生となります。
さて、発生する新型インフルエンザは、どんな性質のウイルスによるもので、どんな症状になるでしょうか。 実は、ハッキリしたことは誰にも分かりません。備蓄の進められている抗インフルエンザウイルス薬が効かない可能性もあります。
最悪の場合、感染経験のない人ばかりなので、1人の患者が周囲の人に感染させ、その患者がまた周囲の人に感染させてという連鎖が、感染して治った人、つまり免疫を持つ人の「防波堤」ができるまで続くことになります。
そして、ひょっとするとワクチン量産まで、「防波堤」はできないかもしれません。新型インフルエンザウイルスが分離されてから、そのワクチンが量産され予防接種できるようになるまでに約1年かかると見られています。
運よく軽い症状で済むウイルスの突然変異ならよいのですが、致死的なものであった時(高病原性と言います)には、死者や重症者が続出することになります。現実に鳥インフルエンザによる死者が相次いでいますので、杞憂とは言い切れません。
死者・重症者が続発するだけでも十分に恐ろしいのですが、死者や重症で社会活動から離脱する人の続発することは、さらに別の恐ろしい事態も引き起こします。次項で説明します。
過去の大流行 「パンデミック」 歴史上、名高いのが1918年に発生し、第一次世界大戦終結を早めたとも言われる「スペインかぜ」です。この時にはまだ感染源がウイルスと分かっていなかったため、その感染者数は定かでありませんが、全世界で4千万人、国内でも当時の人口5千5百万に対して39万人が死亡したとの説があります。その後も、57年に「アジアかぜ」、68年に「香港かぜ」、77年に「ソ連かぜ」が流行しています。