知って得する 診療科のナゾ
開業医が最初に診て、自分の手に負えないと思った時だけ適切な施設・診療科へ紹介するという流れがスムーズでないと、フリーアクセス制は不具合を来たします。
ところで最近、開業医と病院勤務医との間に利害対立があると報じられることもありますが、両者が元から異なる医師ということではありません。研修を終わった医師は多くの場合、大学医局入局→病院勤務医→大学医局→病院勤務医(何回か繰り返す)→開業医という一方通行の経歴を歩みます。いわば、勤務医の「あがり」形が開業医です。
さて問題です。医局と特定診療科との間を行ったり来たりした後で開業した医師は、専門家でしょうか、オールラウンダーでしょうか。
当然のことながら、特別な研修でも受けない限り専門家のままです。そして、病院勤務医が早々に開業する医療崩壊現象も相まって、病院では医師が足りないのに、市中には間口の狭い開業医がどんどん増える、というミスマッチが起きているのです。
開業医の間口が狭いと、一般に「かかりつけ医」には向きません。結果として、「だったらはじめから総合病院に行ってしまえば、最終的に何科になるにしても誰か適した人に対応してもらえるだろう」と、開業医をすっ飛ばして総合病院を訪れる傾向が強まっているようです。
ところが、これが賢いかというと、そうとも言い切れないのです。先ほども述べたように、同じ病院でも横の連携が悪く、最初の診療科が抱え込んで適切な診療科へ紹介されないことは少なくありません。さらに何といっても、病院勤務医は全然足りないので、軽度の人まで最初から病院に行ってしまったら大変なことになります。
つまり、総合病院が診療科ごとに分かれていることが遠因となって、開業医すっ飛ばしと、それにより病院勤務医が疲弊して医療体制が壊れるという悪循環が発生しているのです。また、臓器を見て人を見ずという医師が増えたという社会の不満も、元を辿ると病院が診療科別になっていることに行き着きます。
これを解決するには、さしあたって総合的な診断と専門家への紹介とをできる開業医が大勢いて、「かかりつけ医」の役割をきっちり果たすことが必要と考えられています。しかし、現在の診療科ごとに分かれた医療体制の中では、総合医はなかなか育ちません。04年度から始まった臨床研修制度で各診療科を回ることにはなりましたが、すぐに総合医誕生に結び付くとは言えないようです。
さて、どうしましょう?
卵が先か鶏が先かの問題になりますが、総合医が必要なことは間違いないのですから、医療界に育成を要求するだけでなく、私たち患者も総合医が育ちやすいよう手伝う必要があるとは思いませんか?
まず専門家でなければ診られない疾患は、そんなに多くありません。その意味では、診療科は一つの目安に過ぎないとも言えるのです。まずは信頼できる開業の「かかりつけ医」を持つことから始めましょう。最初から万能の開業医などいませんので、よくコミュニケーションを取って、お互いに協力関係を紡いでいけるといいですね。それが病院を健全化することにもつながり、長い目で見れば得することになるのです。