勤務医の負担軽減と患者の受診抑制
来年4月の診療報酬改定に向け、厚労省は3月2日の中医協で「病院医療従事者の負担軽減について」と題する資料を示した。
その中で、医師の長時間勤務への対応策である「交替制勤務」を導入している3病院を挙げ、「当直明け勤務免除や交替制勤務への評価についてどのように考えるか」と問題提起した。
厚労省が「評価」という言葉を使う場合、新たな診療報酬を設定したり現行の点数を上げたりするケースが多い。つまり、「交替制勤務」を導入できるほど医師数が充実している病院を来年度の診療報酬改定で優遇する方針が見え隠れする。大病院を中心とする連携体制をつくりたいのだろうか。
厚労省案に対し、診療側の鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)は、「こういう病院はどれぐらいあるのか」と疑問を呈した。
「1つの科にたくさん医師がいないとできないので(導入できる病院が)限られるのではないか。こういうものに対して(診療報酬を引き上げる)『評価』という話も次に出てくるが、その場合、極めて限られた所の評価で終わってしまうのではないか」
その一方で軽症患者の存在を挙げ、「時間外に(症状の)軽い方が気軽に来られるようなことがあると非常に負担になる」と述べた。
嘉山孝正委員(国立がん研究センター理事長)も同様に、「こんな病院、日本にあるわけないじゃないか」と一喝、「交替制勤務」を導入した場合に患者の受診に影響が及ぶことを懸念した。
「半分しか医師がいなくなる。昼間いないからアクセスをどうしても制限しなきゃいけなくなる。今のフリーアクセス制の中でこれを提案された場合、そこまで覚悟されているのか」
嘉山委員はまた、都会と地方で患者との信頼関係が異なることを指摘。「時間をすごく掛けて話す。日曜日に家族が『手術のお話を聴きたい』と言うと1時間、1時間半と、それが都会の若い医師を非常に苦しめている」と述べた。
これら診療側の主張に対し、支払側の北村光一委員(経団連)は「我々も若いころは随分、鍛えられたり、長時間勤務とか上司からされた。そういう意味ではやはり医療業界も同じ」と反論。「(診療側委員の)皆様、部下の面倒というのは大変でしょうが、ぜひご指導いただいて、素晴らしい先生に育つようにお願いしたい」と、いつものように医療機関側の経営努力を求めた。
嘉山委員は不機嫌そうな表情で「国民も一緒にやってください」と返した。前回改定時と同じように、「医療者VS患者」という対立構造のまま、今後も同様の議論が繰り返されるのだろうか。
この日、厚労省が示した資料の冒頭には、既に高みの見物を決め込んだかのごとく、こう書かれている。
「病院医療従事者の負担軽減策は総合的に検討する必要がある。(中略)病院勤務医の負担軽減のための取り組みとしては、病院内での取り組みと他の医療機関等との間の取り組みに大別され、病院内での取り組みとして、業務量そのものを軽減させる、人的資源を効率化させるなどの方策が考えられる」
なお、長時間勤務への対応に関する厚労省の説明は5ページ以下を参照。
【目次】
P2 → 「事務局、それでよろしいでしょうか?」 ─ 牛丸部会長
P3 → 「中医協としてすべて承認する」 ─ 遠藤会長
P4 → 「私に預からせていただければ」 ─ 遠藤会長
P5 → 「最も負担が重いと感じる業務は当直」 ─ 厚労省
P6 → 「シフト等の勤務体制で軽減できるか検討」 ─ 厚労省
P7 → 「たくさん医師がいないとできない」 ─ 日医
P8 → 「こんな病院、日本にあるわけないじゃないか」 ─ 嘉山委員
P9 → 「我々も若いころは鍛えられた」 ─ 経団連