指定病院そして補助金
東京都の愛育病院が今年3月、総合周産期母子医療センターの指定返上を都に申し出て、騒ぎになったこと、覚えてますか。
背後に隠れている奥の深い話。その一つがこれです。
監修/土屋了介 国立がんセンター中央病院院長
指定病院とは何か
3月の指定返上騒ぎを簡単に振り返ってみます。発端は、労働基準監督署が愛育病院を指導したことでした。病院側は、指導に従って医師などの勤務条件を緩和するとセンターの指定要件を満たせなくなる、だから返上したいと打診したのでした。対して都は、厚生労働省と打ち合わせした後に、勤務条件と指定要件を両立させる方法はあると説得、応じて病院側も返上の意向を取り下げ、そのまま現在に至っています。
あの出来事で、センターというものは、やるかやらないかの選択権が医療機関側にあること、と同時に指定要件があって労働条件に関係すること、を初めて認識したという方も多いのではないでしょうか。さらに、あの時あまり報じられていませんでしたが、実はセンター指定を受けると、補助金をもらえます。返上するともらえなくなります。
実はこういう仕組みになっているのは、周産期母子医療センターだけに限りません。記憶に新しい新型インフルエンザ騒動の際は、「感染症指定医療機関」の言葉を、ニュースで見たり聞いたりしましたよね。06年の「がん対策基本法」成立前後には、「がん診療連携拠点病院」が随分と脚光を浴びました。他にも、救急、災害、エイズ、臨床研修、精神保健福祉などなど様々な分野に指定があります。皆さんも今度の受診の際に、その病院がいくつ指定を受けているか掲示を確かめてみてください。ズラっと並んでいるのを見て、こんなに? と恐らく驚くはずです。
今回の特集では、ここに注目します。日本の医療の大きな歪みが、この指定と補助の仕組みに隠されているとの指摘もあるからです。
さて、指定を受けるということは、いわば看板を掲げるようなものです。仕事ではなく看板に補助金の出るのは、それが公益の増進につながると国で判断したからということになります。
一般の医療は、地域ごとにある程度完結している必要があり、そのための医療機関の質と量を、看板の数で担保しようという考え方が根底にあります。
元々その仕事をしていた所に看板を掲げさせるなら、看板と実態と乖離することはありませんが、仕事をしていた所がなくても看板さえ掲げさせてしまえば行政として責任を果たした形になるのが問題です。援助してあげたんだから、あとは責任持ってやってね、という理屈です。
「援助」は、補助金であることが多く、場合によっては診療報酬の加算がセットで付いてくることもあります。補助金は税から、診療報酬は保険から支払われるので若干性格が異なります。また診療報酬は実際の仕事量と金額とが概ね比例しますが、補助金の場合はそうとも限りません。