梅村聡の目⑥ 診療報酬と介護報酬は3年に1度の同時改定を
関西版『それゆけ!メディカル』限定コンテンツです。
医療の世界では、プラン・実行・検証というサイクルが、今ひとつきちんと回っていません。大きな理由が2年に1度と忙しすぎる診療報酬改定にあると思っています。介護との連携を考えるためにも3年に1度へ変更すべきです。
健康保険を使って医療機関が行う検査や治療などの値段は国が内容を細かく決めていて、「診療報酬」と呼ばれます。一方、介護保険を使って介護事業所が行うサービスの値段は「介護報酬」と呼ばれ、こちらも国が決めています。
この二つの公定価格は定期的に見直しが行われています。見直しには、大きく二つの目的があります。一つは医療機関と介護事業所のコストを反映すること。もう一つは、内容の良し悪しはさて置き、国のめざす医療や介護の方向性を示すことです。例えば前回の診療報酬改定では、脳卒中や大腿骨頸部骨折の地域連携パスを作ることに、点数が付きました。脳卒中医療や大腿骨頸部骨折を地域連携で診ていこうという方針を立てたので、それに沿った医療機関にはお金を払ってあげようということです。
診療報酬は2年に1度、介護報酬は3年に1度のタイミングで改定が行われています。結果的に、6年に1度は診療報酬と介護報酬の同時改定が行われています。どうして医療と介護で改定のタイミングが違うのでしょうか。
ただの慣習
介護報酬については、介護保険法の中に「3年に1回、保険料を見直して決定しなさい」という内容の条文があります。これに合わせて介護報酬改定を行っているわけです。
一方の診療報酬ですが、実はこちらには明確な根拠はないんです。保険料は毎年変わっていますし、「2年に1回変えなさい」という法律はどこにもありません。要するに慣習なんです。
国民皆保険制度は1961年に始まり、ちょうど今年50周年を迎えました。制度開始当初の日本は戦後の高度経済成長期にありました。人件費も物価もどんどん上がっていた時代で、医療の値段も2年に1度変えなければ追いつかなかったんです。それ以降ずっと2年に1度の改定です。
ところが今やGDPの伸びは鈍化しており、人件費も横ばいです。高度経済成長期と同じく2年に1度改定する理由はないわけです。
であれば、2年に1度の報酬改定は忙し過ぎます。あるべき医療の姿を追求するには、「プラン・実行・検証」のサイクルを回すことが不可欠です。つまり、前回の報酬改定の効果を検証してからでなければ、次の改定はできないはずですよね。
しかし今のスケジュールでは、4月から始まった新報酬体系の影響が分かるのは次の年の4月以降なのに、その頃には次の改定の議論が始まってしまっています。何を基に議論しているのかさっぱり分からなくなっているわけです。暫定数値だけで考えていかないと改定の議論に間に合わないのです。これでは元々の狙いが達成できているかどうか分からないままです。本来は、1年間検証してからしっかり議論し、それから点数を改定すべきではないでしょうか。
毎回の診療報酬改定で、様々な加算が突然できて、そして十分検証されないまま廃止されたりすることもあります。
医療事務の現場スタッフにとっても大きな負担になっています。診療報酬はとても複雑で難しくできているので、解釈するのも大変です。でも病院経営に直接的に関わってくる話ですから、新しい報酬体系を理解するために、スタッフは毎回とても分厚い冊子を読み込んで準備を進めます。中には毎回徹夜で準備をする医療機関もあると聞きます。それなのに、2年経てば改定されるわけです。現場を忙しくするメリットは何もありません。3年に1回になれば、少しは負担も減るのではないでしょうか。
私は、医療と介護を別に報酬改定するのは変だとずっと思っていました。普通の社会の感覚でおかしいものは直せばよいだけのことです。診療報酬改定の頻度が法律で定められているわけではありませんので、厚生労働省本体の体制を変えれば対応できると思います。厚労省からすると、中医協の運営方法を変えたりする必要性がでてきて大変かもしれませんが、あくまで国民や医療現場の目線を大切にすべきです。
連携強化に直結
現在の6年に1回の同時改定が3年に1回になれば、医療と介護の連携を見直す機会も2倍になります。
先日北海道で開催された学会で、厚労省で診療報酬改定を担当する方が講演していて、「2012年度は医療と介護の同時改定があります。(団塊の世代が後期高齢者になる)2025年をどう乗り切るかが勝負です。それまであと3回しか(同時改定は)ありません。『ホップ・ステップ・ジャンプ』の『ホップ』です」と言ったので、私は「ちょっと発想を変えればもっと良い制度になるのに」と感じました。両方3年に1度の改定にすれば、あと6回、毎回『ジャンプ』できるのにと私は考えたのです。
毎回同時改定にすれば、医療課と老健課はさらに連携していくことになるでしょう。本来、医療と介護は常に連携しないといけないわけですから、毎回同時改定の方が望ましいに決まっています。
今後は、診療報酬改定を議論する「中央社会保険医療協議会(中医協)」と、介護報酬改定を議論する「介護給付費分科会」のメンバー時々交流会議を持つのも良いと思います。同じ報酬改定でも、中医協と介護給付費分科会の内容や雰囲気は全く違いますから、それぞれの疑問点や改善点などが見えてくると思います。
それから東京の霞が関だけで議論するのではなく、時々別の地域で議論をしたらよいと思います。たまに違う都道府県に行って、地域の人たちにオブザーバーとして入ってもらって意見を言ってもらいます。こうすると報酬改定も医療者や国民が当事者意識を持てる参加型になって、面白い議論になると思います。今の国会議員にはあまりこういう発想はないようで、皆さん「○○審議会ででこう言っていた」という耳年増の話ばかりです。でも今の体制のままにしておく理由は何もないわけですから、もっと合理的でより議論の深まる形に変えてよいと思います。