梅村聡の目⑪ 火中のクリ生活保護改革 座長としてまとめました
生活保護受給者が約206万人と過去最多に上り給付総額が膨張する一方で、不正受給など問題も絶えません。私が座長を務めた与党の生活保護制度改革ワーキングチームは報告書をまとめ、受給者の医療費の一部自己負担導入など制度改正を提案しました。
最近の報道によると、生活保護受給者は206万人を超えました。戦後の混乱期で過去最多だった1951、1952年度の204万人を初めて上回り、生活保護に関する給付額も今年はおそらく3兆4千億円ぐらいになると予想されています。国の税収の1割弱にも相当する額です。また、最近は不正受給の問題も大きくクローズアップされています。本当に生活保護が必要な方ですら、不正受給だモラルハザードだ、と言われてしまうおそれがあります。
モラルハザードや不正受給は「国民の道徳の問題」という意見もあります。しかし私は、むしろそうさせてしまう国の制度が悪いのだと思っています。
そもそも生活保護制度は戦後の生活困窮者を救うために作られた制度で、生活保護法の中身は制定された1950年以来ほとんど変わっていません。現代にマッチしているはずがないのです。例えば現在生活保護をもらっている方の約45%は65歳以上ですが、当時そんなことを想定していたはずがありません。法律も含めて抜本的に見直す時期が来ていると思います。
ところが、この話を厚労省にしてみたら、「この法律は60年間ほとんど変えていないんです。だから変えるには、相当大きな理屈が必要です」と本末転倒な返事が来たので驚きました。これはこれで相当深刻な問題だと思いました。
抜本的見直しを進めていくため、党の厚生労働部門会議の中に「生活保護制度改革ワーキングチーム」を作り、私が座長を務めました。先日取りまとめた報告書の中で、大きく五つの対策を提案しています。
皆やりたくない
生活保護の問題には、これまでは誰も真剣にならず、抜本的な対策が取られずにきました。国会議員の誰もがやりたがらないことなのです。制度の歪みに乗じて甘い汁を吸っている人も大勢いるため、改革すると票を失うことになりかねないからです。
こんな火中の栗を拾うような改革の座長を私が引き受けたのは、大阪府選出だから。大阪市は18人に1人が生活保護受給者で、改革への反発は大変に強いと予測されます。その私が取り組むことで、他の国会議員の背中を押し、国を動かすことにつながるのかなと思いました。予想通り、会合の中で「与党が次の選挙に負ける」などと相当反発を受けましたし、抗議の電話も受けました。
全般に、国会議員は充実策しか出さず、リストラ策を出しません。支出増は票になるけれど、支出減は票にならないからです。だから民主国家の財政は赤字になりやすいのです。良い悪いの問題ではなく、そういうものです。最近のニュースで世界の民主国家がみな赤字になっているのを見ても分かると思います。私は、自分が国会議員になる前から、これが問題の元凶だと思っていました。
だからこそ、逆ネジを巻く国会議員が国の抜本改革には必要なのです。目の前の票を得るための行動ばかりでは、日本の将来につながりません。今回の五つの提案を党のトップが採用してくれるならば、かなり踏み込んだ改革ができると思っています。
当たり前の制度に
では五つの提案を簡単に説明します。
一つ目は、不正受給とモラルハザードを防ぐための入り口対策です。現在は生活保護申請者の資産や収入を、自治体の福祉事務所が支給開始前に調べ切れていません。例えば預金に関して、すべての金融機関の口座を名寄せして調べ上げるべきです。報告書では、厚生労働省は金融機関団体と交渉して、全国調査できるような体制を作るよう求めています。できない場合は、法律改正して金融機関の回答義務を作るとしました。
二つ目は自治体への調査権限の付与です。悪質事例が疑われる場合などでは、場合によっては警察と連携して調査できるような仕組みを求めています。
三つ目は、悪質な事例を自治体が積極的に刑事告発できるような仕組みです。今は生活保護に関する刑事告発の基準がないため、自治体はおかしいと思っても慎重にならざるを得ず、日本全国で毎年30~40件程度の告発しかありません。国が刑事告発の基準を決め、自治体には粛々と進めてもらうということです。
四つ目。現在は不正受給が発覚しても不正した本人の同意がないと返還させることができません。こんなおかしな話はありませんから、同意なしでも返還させられるよう求めています。
最後に、現在は窓口自己負担ゼロの医療費を、一部自己負担してもらうことも提案しています。ただ、かなり賛否両論があったため、両論併記にしています。完全に無料だと、やはりモラルに影響すると思います。100円でもいいから窓口で自分の財布から払って医療を受けるようにした方がいいと思います。「払えるわけがない」との意見もありましたが、それなら受給する生活扶助費に医療費分を足したり、かかった窓口負担分を後で返還したりするなどして実質は負担がないようにすればいいと思います。お金を取ることが目的ではなく、医療そのもののコスト意識をしっかり持ってもらうことが狙いなのです。
厳しくするだけでなく、充実策も盛り込みました。現在の生活保護は、一度受給し始めると抜けられないというのが問題です。例えば貧困の連鎖を防ぐため、受給者の子供への進学支援を積極的に入れるべきとしました。また自治体を管轄する総務省とハローワークを管轄する厚労省が連携して就労支援に取り組む予算も付けるべきとしています。
今回の提案内容は、最初の一歩です。総合的には、雇用問題の解決のほか、基礎年金額と生活保護支給額と最低賃金額の整合性をとることも必要です。これらは一朝一夕にできることではないため、1年かけて議論すべきと書きました。
生活保護制度は、「もらわないと損」、「もらうのは恥ずかしい」という両方の意識がありますが、どちらの意識もおかしいのです。当たり前の制度設計とすることによって、不正受給を防ぎ、モラルハザードを起こさないようにしておくことが大事です。