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リン排泄役の腎臓がCPPで傷む悪循環~【年間特集】血管を守る②

原尿中のリン 細胞を傷害

 腎機能低下が加齢に伴うものだけなら、とやかく言っても仕方ありません。しかし実際には年齢に関係なく、リンの摂取過剰などで血中CPPが多いと、腎臓がリンを尿から排泄しようと反応し、その過程で腎臓が傷むため段々と血中リン濃度が下がらなくなり、CPPも出来やすくなる、という悪循環があるようです。

ホルモンが増える

 この悪循環は、慢性腎臓病(CKD)で顕著です(出発は、血中の過剰なリンです。腎機能が正常なら、速やかに排泄してくれます。

 ネフロンが少し減って腎機能が落ちてくると、数が減った分、1個1個をより多く働かそうとリン排出ホルモン(FGF23)の分泌が増えます。ネフロン1個1個の処理する血液の量が増えるということです。

 この過程で、「腎臓の近位尿細管やその周辺組織で石灰化が進んでいることが、よくあります」と黒尾教授。

 CPPは血管から外に出ることのできない大きさで、したがってたとえ血中にCPPが存在したとしても、原尿に含まれるはずはありません。それなのに、原尿にしか接しない尿細管で石灰化が起きている。ということは「原尿でもCPPが形成されている、と考えられます(図)。石灰化だけでなく、細胞障害、慢性炎症、線維化が誘導されることも観察されています」と黒尾教授。

 つまり骨で使い切れないほどの過剰なリンが血中にあると、腎臓はリン排泄を頑張らざるを得ないけれど、その過程でCPPが形成されてしまってネフロンを傷つけるために腎機能が落ちていく。こんな悪循環が存在すると考えられるのです。

腎線維症にも関与?

 さてCKDでは、血管石灰化が特徴的な病変として以前から知られていました。そして、近年の臨床研究で、CKD患者では血中のCPP値が増えており、CPPが増えるほど動脈硬化は進むことも分かっています。またCKDでは尿細管が傷み、腎線維症が起きることも、よく知られています。

 これについて黒尾教授は、CPPこそ、腎臓の線維化をひき起こす正体と見ています。

 ただCPPは血管から外に出ることのできない大きさなので、たとえ血中にCPPが存在したとしても、原尿中に濾過されるはずはありません。それなのに、原尿にしか接しない尿細管がCPPによって傷み、腎線維症が起きるとしたら、一体どういうことでしょうか。

 黒尾教授は、以下のように考えています。

腎臓が傷む仕組み.png
 まず過剰摂取などで、腎臓の能力に対して血中リン濃度が高ければ高いほど、血中CPPの量も増えます。FGF23の分泌が増えて、腎臓でのリンの再吸収が抑制される結果、原尿中のリンの量も増えます。

 それでも、CKD初期までのようにネフロンの数が多ければ、尿の水分量を増やして、ネフロン1個あたりのリン排泄量を増やすことで対応できます。しかし、さらにネフロンが減少しステージ2になる頃には、尿のリン濃度を挙げなければ排泄しきれなくなります。その分、リン酸カルシウムの結晶が析出しやすくなります(図)。 

 この時、原尿中にタンパク質が含まれれば、CPPが速やかに形成されて細胞の受容体と結合、病原体のように振る舞います。含まれなくてもリン酸カルシウム結晶そのものが細胞壁にこびり付きます。基礎実験では、リン酸カルシウム結晶の方がCPPより細胞毒性は強いそうです。

 こうして「細胞傷害、慢性炎症、線維化が誘導されます」と黒尾教授。血中のリン濃度が上がってきた時には、腎臓は既にひどく傷んでいるということになります。

(コラム)リン制限は結果オーライ
 現在、CKDの患者には、リンの摂取制限やリン吸着材の投与がおこなわれています。直接の根拠となっているのは、高リン血症が血管石灰化や全死亡率を悪化させる危険因子と同定されてたことです。「当時は詳しいメカニズムは不明なまま、とにかくリン濃度を下げてみたら予後が改善した、という事情があります」と黒尾教授。近年、問題はリンそのものでなくCPPにあることが明らかになってきていますが、リン濃度を下げることはCPP形成の抑制につながるため、結果的に適切な処置だった、というわけです。

(コラム)ただし再考も必要?
 本文のような流れでCKDが進行していくのだとすると、「現在は、高リン血症が現れてから、リン吸着剤を処方しますが、それでは遅いかもしれません」と黒尾教授。

 血中のFGF23が増えてきた段階で、既にネフロン減少ははじまっている可能性が高く、腎臓の負担を軽くするためのリン制限や吸着剤処方を行うべきでないか、と黒尾教授は考えているそうです。

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