動脈硬化の共犯 リン酸カルシウム~【年間特集】血管を守る①
これまで動脈硬化の主要な原因物質として槍玉に挙げられてきたのは、前号でもご紹介したようにLDL(悪玉コレステロール)でした。
このため、心血管事故を起こしやすい人たちに対してLDLコレステロールの値を一定以下に抑えようとする医療介入が行われています。『ロハス・メディカル』でも過去に特集しています(2007年7月号、webで電子書籍を読めます)。
ただし、LDLコレステロールがプラークとして動脈に溜まるには、酸化されて免疫細胞のマクロファージに食べられるというステップが必要です。
このステップを加速すると考えられるのが、血管の壁で起きる炎症。
その観点から注目されるようになってきたのが、生命活動に必須のミネラルであるリンとカルシウムが血管に沈着して、血管を骨のように硬く脆くさせる現象です。血管の「石灰化」と呼ばれます。
自治医科大学抗加齢医学研究部の黒尾誠教授は、「私がト卿と老人医療センター(現・同健康長寿医療センター)で研修医をしていた頃は、診察したお年寄りの大動脈には、ほぼ100%に血管石灰化が見られました」と話します。要するに、石灰化=老化と言っても過言ではありません。
実際、進行や影響の出方が緩やかなせいもあって、血管石灰化は長らく単なる「老化現象」として片づけられてきました。「基本的には無害な疾患で、通常は50歳以上の男女に認められます」としている医学百科もあるくらいです。
ところが最近の研究から、血管石灰化は単なる老化ではなく、ある物質の過剰が原因で起きるものであり、その物質は細胞死や免疫反応(炎症)を招くなど、いわば病原体のように作用しているのでないかと考えられるようになったのです。
その名はCPP
その物質が「CPP※」。リンとカルシウムの結合したリン酸カルシウムが、さらにタンパク質と結び付いた微小結晶です。リン酸カルシウムは、そのままだと凝集してしまって血液や尿に溶けづらい性質があります。これを、凝集せず血中や尿中に溶けやすい状態にする入れ物のようなものです。
このCPPが血管の中膜と呼ばれる壁にこびりつき、その結果として血管が弾力性を失って硬く脆くなるという血管石灰化のメカニズムを提唱しているのが、黒尾教授です。
※Calcic Protein Particle(カルシウムとタンパク質の粒子)の略語