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がん幹細胞を追いかけて①

104-2-1.jpg 再発や転移の防止は、がん研究の大きなテーマです。カギを握っているのでないかと注目されているのが、「がん幹細胞」(cancer stem cell)です。

 がん幹細胞の説明をする前に、その名前の由来となった通常の幹細胞のことを簡単に説明します。幹細胞は、細胞分裂の際に、自分と同じ幹細胞を作り出す(自己複製能)と同時に、様々な細胞に成長しうる細胞をも生み出し(多分化能)ます。普段は休眠状態にありますが、組織の成長や傷の再生など細胞供給が必要な状況になると分裂を始めます。いわば"親玉"です。皆さん名前を聞いたことはあるであろうES細胞やiPS細胞も幹細胞です。

 そして実はがん細胞集団の中にも、同じような性質を持つ細胞が存在することから、それらは「がん幹細胞」と呼ばれるようになりました。ただし今のところ、正常な幹細胞ががん化するのか、分化した正常細胞からがん幹細胞が生まれてくるのかは、ハッキリしていません。

治療効果が低い

 公益財団法人がん研究会がん化学療法センター分子生物治療研究部の馬島哲夫研究員によると、「がん幹細胞」は、腫瘍内に存在し、①自己複製能、②多分化能、③腫瘍形成能という特徴を併せ持つ細胞集団と定義できるそうです。さらに次のような特徴も明らかになってきています。
●正常幹細胞と同様、静止期(G0期、いわば冬眠状態)に留まって滅多に分裂しないと考えられており、そのため、分裂期に功を奏する抗がん剤や放射線に治療抵抗性を示す
●抗がん剤を排出する特殊なポンプを持つ
●放射線や活性酸素等のストレスに対し、修復機構が働く
●乳がんや前立腺がんなど性ホルモン依存型のがんでも、抗ホルモン剤が効かない(性ホルモンの受容体の発現が低下しているため)

などです。

 このような特徴があるので、がんの治療をしても、がん幹細胞は生き残ります。そして再発や転移につながるというわけです。再発・転移を防いで根治をめざすため、がん幹細胞を封じ込めようとする研究が盛んに行われているのは、これが理由です。
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 がん幹細胞を一掃できるなら手段は問わない、というわけにもいきません。よく性質の似ている正常の幹細胞まで攻撃してしまったら、副作用も出てしまいます。

 「がん幹細胞の性質は、まだ十分に明らかにされてはいません。しかし、明らかにされた性質を標的としたり、がん幹細胞の増殖を抑えるという活性を指標として、いくつかの候補薬が見出されてきています」と馬島研究員。がん幹細胞の性質のさらなる解明と同時進行で、薬の開発が進んでいます。実用まであと一歩に漕ぎ着けているものもあります(コラム参照)。

※母細胞から二つの異なる娘細胞ができる「非対称分裂」が起きている。

新薬が第Ⅲ相臨床試験中

 BBI608という新薬が、標準的治療で効果を得られなかった成人の結腸直腸がん患者600人以上を対象に第Ⅲ相臨床試験中です。がん幹細胞への効果を持つ世界初のがん治療剤として、2015年度に北米で、2016年度には日本でも、発売をめざしているとのこと。頭頸部がん、胃がん、卵巣がん、メラノーマ、乳がんなど他の成人進行性固形がんでも第Ⅰ・Ⅱ相試験が続いています。
 BBI608は、がん幹細胞の自己複製を阻害し、がん細胞をアポトーシス(自死)に導くと考えられています。


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