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あなたの悩みにお答えします⑤

薬を飲んでも良くなった気がしないので、もらうだけで飲んでいません。このままで構わないでしょうか?
答える人 久由紀子さん(30代女性 クローン病)
聞き書き 武田飛呂城・NPO法人日本慢性疾患セルフマネジメント協会事務局長
 薬をきちんと飲むのは大変なことですね。私も、飲めなかった時期が何度かあります。

 私は中学2年生になってすぐ、下痢と発熱、貧血の症状が出て、クローン病と診断されました。クローン病は、口からお尻までのすべての消化管、なかでも特に小腸や大腸に炎症を起こしやすい病気です。脂質の多い食事は腸を刺激して炎症を起こしやすくすることから、特に食事に気をつける必要があります。

 発症した当時は1カ月入院し、食事を摂れず、成分栄養剤と薬を飲むだけの生活でした。成分栄養剤の味が苦手で、吐き気を抑えながら飲みました。退院後も1カ月は食事を禁じられ、その後は鶏のササミや白身魚など、脂質の少ない食事とおかゆだけ。普通の食事ができないことが本当につらかったです。

 それでも実家暮らしだったため、親が作った脂質の少ない食事を食べ、成分栄養剤と薬を飲み、体調もそこそこ安定していました。

 しかし、大学入学を機に一人暮らしを始めたところ、食べたいものを食べられなかったストレスから、反動が起きました。大学の友人には病気のことを言っていなかったため、人前で薬を飲みにくく、薬を飲まなくなり、友人と同じ普通の食事をして、成分栄養剤も飲まなくなりました。すると大学3年生の終わり頃、大腸に潰瘍ができて痛みが我慢できないまでになり、ついに入院。手術を受けることになりました。

 さすがにこのままの生活ではいけないと思って、大学の友人にも病気のことを伝え、食生活と服薬をきちんとするようになりました。すると、体調も良くなりました。

 そんな模範的な生活になったのも束の間、大学卒業後に就職すると、仕事のストレスや体力的なきつさもあり、また体調を崩しました。定期的に入院と手術を繰り返すようになり、薬を飲んでも体調を崩すなら飲まなくても一緒と思い、また薬を飲まなくなりました。

 そんな中、ある入院で同部屋になった女性が、同じ病気で同い年でした。色々話すと趣味が同じ演劇鑑賞で、気も合って、退院してからも外で会うようになりました。

 彼女はきちんと薬を飲んでいて、分からないことは主治医に質問し、前向きに病気と付き合っていました。私は、その姿を見て、病気と向き合うのは格好いいなあと思いました。それまで私は病気をマイナスと捉え、見ないようにしていたのですが、病気があってもこんな風にイケてる人になれるんだと思って、病気のイメージが変わりました。今まで、怒られると思って、主治医に薬を飲んでいないことも言わなかった自分を反省しました。まずはもう一度、薬と成分栄養剤をきちんと飲むところから始めようと思いました。

 その後、患者会や日本慢性疾患セルフマネジメント協会のワークショップにも参加するようになり、多くの人が病気と付き合いながらやりたいことをやっている姿を見ました。歩くのが大変な病気でも歌を楽しんでいる人や、パンを焼くのが趣味だという人もいました。そして私は、この先どんな風に生きていきたいのか、そのためにどんな治療が必要かと考え、主治医と話すようになりました。

 今でも入院することはありますし、体調は一進一退です。でも、入院しても昔ほどは落ち込みません。入院は負けではなく、自分に必要なオプションの一つと思えるからです。薬についても、主治医に言われたから飲むのではなく、自分がやりたいことをするために必要なんだと思えるようになり、きちんと服薬できるようになりました。
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