文字の大きさ

過去記事検索

情報はすべてロハス・メディカル本誌発行時点のものを掲載しております。
特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

救急医療の現在

一刻も早く、一人でも多く救うために。

 突然の急病やけがを前にして、私たち一般人ができることは限られているかもしれません。でも、"救急のプロフェッショナル"たちを信頼し、彼らが一刻も早く力を発揮できるよう最大限協力することならできるはずです。

1、できる範囲で時間短縮の工夫をしよう。

 いったん緊急事態に陥ったら、1分の差が大きく命を左右します。現実に誰かが緊急事態に陥った場合、そばにいた人の119番通報→救急隊の救命措置→病院での救命治療、とできるだけ迅速に行われることが救命率アップには必要です。
 通報から救急車の現場到着まで都内の平均時間は5~6分です。たった5分ではありますが、救急隊到着前に人工呼吸や心臓マッサージなどの救命措置を施せば救命率はグンと上がるとのデータがあります。講習会などで経験のある人は積極的に行いましょう。
 たとえ救命処置ができないとしても、現場の安全を確保したり、救急車が停車しやすい場所を作ったりならできるはず。救急隊に早く引き渡すために工夫するのも、立派な"救命"行為です。

2、救命救急士、そしてドクターカー。

 救急車に同乗し、電話で医師の指示を受けながら気道へチューブを入れて息を回復させたり(気管内挿管)、止まった心臓を回復させる手当てなどを行う救命救急士。今年4月には全国で1万4000人となり、全国の救急隊約4700隊のうち73%に救命救急士がいます。
 さらに、様々な薬や治療用器具を装備し、医者が同乗するドクターカーの配置も進んでいます。ドクターカーは、医師が必要と認めたときに出動。一般の救急車では対応できないような重篤な患者さんに、種々の薬剤投与や気道確保などの処置を行いながら搬送します。

3、電気ショックで心臓を復活させるAED

 突然死の死因の大部分を占める心臓疾患。その多くは心臓がけいれんする心室細動という病気で、助かる可能性は1分経過するごとに約10%ずつ減り、10分後にはほとんどの人が死に至ります。そこで、できるだけ早く除細動を行うため、平成16年7月から一般市民による使用が認められたのがAED(自動体外式除細動器)。電気ショックが必要かどうか、心臓の状態を判断できる機能を備えた電気ショックの機械です。公共の施設などに置かれています。初心者でも、機械の指示通りに行動すれば使えます。いざという時のために、置き場所を覚えておきましょう。

救急ヘリがあれば助かる命がある 1-2.4.JPG 私は、狙撃され、救急医療によって命を救われた経験のある人間です。昼夜を問わず人命を救おうと働いている方々には本当に頭が下がります。  ただし、課題がないわけではありません。救命率のガクンと落ちる30分以上の搬送が、全国約460万人のうち38.5%もあります。救急車だけでは間に合わず救い切れない命も多いのです。  救急専用のドクターヘリを使えれば、死者、後遺症の残る人、ともに30%以上減ると推定されます。でも日本では、北海道、千葉、神奈川、静岡(2機)、長野、愛知、和歌山、岡山、福岡の9道県にしかありません。日本は世界でも最も遅れているのです。  他の先進国では街中で日常的に運用されています。例えば、私が大使として赴任したスイスの場合、九州ぐらいの国土に13機が常駐していて、24時間どこへでも15分で飛んでいきます。1機あたりの年間出動数は1000件なので、日に3度近く飛んでいる計算です。  ヘリなんて贅沢と思うかもしれません。でも減価償却費も含めた年間運用費は1機2億円です。全都道府県に1機ずつ50機を配備したところで100億円ですから、国民1人あたり80円に過ぎません。年間の健康保険負担30兆円からみれば0.03%。誤差の範囲内です。それで何千人も助かる可能性があるのです。
  • MRICメールマガジンby医療ガバナンス学会
掲載号別アーカイブ