75歳は医療の曲がり角 後期高齢者医療制度
マスコミであまり報じられていないことで、始まってから皆さんをより驚かせると思われるのは、提供される医療が75歳を境にこれまでと変わることです。
「変わる」などと言われた覚えがないかもしれませんが、新しい診療報酬体系が導入されることは決まっています。
過去の診療報酬特集(05年12月号、06年12月号)でも説明したように、診療報酬は医療機関が何をするといくら受け取れるかを規定しており、ちょっとした改定の度に医療機関が右往左往します。ましてや新体系です。医療機関にとって、どれほどの影響があるかご想像ください。
過去の改定の歴史を辿ると、赤字になるような医療行為は敬遠されるようになります。「医は仁術」でないのかとお怒りの向きもあるでしょうが、人間のすることですから赤字垂れ流しでは継続できません。そもそも、国が抑制したい医療行為を赤字になるよう点数づけするものなので、敬遠する方が公共の利益にかなうはずです。ただし国の考えることが現場の実情と必ずしも一致しているとは限りません。本当に公共の利益にかなうかどうかは、現場の視点でも検証する必要があります。
さて、その新しい体系ですけれども、これから社会保障審議会や中央社会保険医療協議会(中医協)で細部が詰められていくことになっています。現在進行形の話なので、世論の盛り上がり具合によって、いくらでも変わる可能性があります。その意味でも、ぜひ注目していただきたいのです。
現段階までに表のような大まかな方向が厚生労働省から示されています。
これらは、ごもっともなことばかりですが、物事にはすべて表と裏、光と影があり、本当の目的が裏や影の方にある場合も少なくありません。
骨太の方針により07年度から5年間、社会保障関係費は伸びを年2200億円ずつ減らすと決まっています。総枠が増えない中で「国の方針に沿う」と優遇されるものがあるなら、優遇分のお金は「方針に沿わない」ものから移すしかないわけです。
たとえば、「主治医」を認定して診療報酬を優遇するならば、主治医以外の医師の診療報酬を現在より引き下げて医療機関側が敬遠するよう仕向けるか、主治医以外の受診の際に自己負担額が増えるかするに違いありません。これは日本医療が世界に誇ってきた「フリーアクセス」(患者がどこの医療機関でも自由に選べる)の制限に他なりません。
在宅医療を推進するというからには、在宅へ移行可能な後期高齢者を入院させ続けると赤字になるよう診療報酬を下げるはずです。実際、現在そのような方が入院していると見られる療養型病床を今後5年間に全国で23万床削減する計画と言われます。この問題は近く別に特集します(vol.38参照)。
このように裏や影の部分ばかり強調するのは、後期高齢者医療制度設立の目的が、高齢者にふさわしい医療の形を定め、その効率的運用によって医療費の抑制をすることとされているからです。
高齢者にふさわしい医療を定めるのと、医療費が抑制されるのとは本来関係ないことではないでしょうか? この二者が矛盾なく連動するのは、どういう場合でしょうか?