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「急性期」って、どういう意味?

 政権交代後の医療政策が具体的に見えない中、「急性期」の定義をめぐる論争が再燃している。交通事故や脳こうそくなど、生命にかかわるけがや病気の患者が「急性期」であることに異論はないが、しばらく入院して状態が安定した場合を「急性期」に含めるかなど、「急性期」の範囲をめぐって議論がある。これは、高齢者医療の在り方に深くかかわる。(新井裕充)

 現在、「急性期」の明確な定義はない。テレビドラマなどで見かける救急搬送のシーンが「急性期」であることは共通した理解といえる。ただ、病気やけがの発症直後を「超急性期」と呼ぶ救急医もいる。救急搬送の流れに従って、「現場」→「超急性期」→「急性期」などに区別する。

 このような区別をするのは、生死をさまよう「超急性期」の患者をできる限り受け入れるべきだという考えに基づく。まずは救命、落ち着いたら別の専門病院で治療を続ける。救急患者をまず地域の救急病院が受け入れ、そして高度な医療を提供できる病院に転院させる。

 しかし、診療報酬の相次ぐマイナス改定により、地域の2次救急を担っていた中小病院が救急医療から撤退。その結果、"最後の砦"であるべき3次救急の病院が、"最初の防波堤"になっているとの指摘もある。そこで、2次救急の機能を回復させるため、中小規模の救急病院に手厚い診療報酬改定をするよう求める声もある。
 例えば、老人保健施設の入所者が転倒骨折した場合や、在宅患者が急性肺炎を起こした場合など、高度な医療を提供する急性期病院の治療までは必要ないけれど、地域の中小病院で十分に対応できるような急性期医療(サブ・アキュート)がある。このような「地域一般病棟」を評価すべきとの考えもある。

 しかし、中小病院の急性期医療を十分に評価すると、「慢性期病床を減らしたい」という厚生労働省の方針に逆行してしまう。かつて、「急性期病院の代名詞」といわれたDPC病院には、慢性疾患を抱える高齢者らが医療保険で長期入院する「医療療養病棟」を併設する「ケアミックス病院」も多く参入している。
 1つの病院の中で、「急性期」のベッドと「慢性期」のベッドを行ったり来たりする。介護を嫌う家族の意向などで「社会的入院」が増える。このような長期入院を放置すると医療費が膨らむ。

 こうした中で、「ケアミックス病院」をDPCから外すべきとの議論もあった。高齢者の入院医療を充実させることは、中小病院を"元気"にしてしまう。そうすると、医師や看護師など限られた医療資源を大病院に集約化しようという政策にとっては障害になる。

 2007年10月22日の中医協・DPC評価分科会で、厚労省保険局医療課の宇都宮啓企画官は「急性期医療」の概念を明確にするよう提案。「重度の急性期」と「軽度の急性期」に区分する案を示したが、池上直己委員(慶應義塾大医学部医療政策・管理学教授)が異論を唱え、頓挫したという経緯がある。
 最終的に、「急性期とは、患者の病態が不安定な状態から、治療によりある程度安定した状態に至るまで」という幅広い定義にとどまった。

 慢性期の入院医療について審議した9月9日の中医協分科会で、厚労省の元幹部は「以前、『70歳を超えたら手術はしない』と言っていた時代の急性期と、今の、(高齢者にも)対応している急性期とは相当違ったものができている」と指摘した上で、「非常に重い課題を、実は『急性期』の中に背負い込んでいる」と悩みを見せた。

 「入院から在宅へ」という一連の医療費抑制策の中で、「後期高齢者医療制度」がある。新政権は高齢者医療をどのように考えるのだろうか。「後期高齢者医療制度」を廃止しても、延命医療や高齢者医療の在り方についての議論は終わらない。「急性期とは何か」という問題は、高齢者医療の在り方と表裏の関係にある。
 

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