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特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

手術を受ける患者の命綱 麻酔科医


医療安全を左右する

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 「縁の下の力持ち」の麻酔科医は、執刀する外科医に比べると普段はほとんど目立ちません。麻酔科医が提供するのは「安心・安全」という一見当たり前で見えにくいものですが、患者の利益に直結しています。麻酔科医の行う麻酔は飛行機と同じぐらいの安全性と言われます。麻酔が原因で死亡した患者は20万人に1人で、このうち患者の健康状態に問題がなかったケースだと70万人に1人まで下がります。米国では麻酔科専門医が麻酔を行うことで手術後の死亡率が下がるという調査もあり、麻酔科医の配置は病院の安全性を大きく左右します。
 では、実際にどう変わるか見てみましょう。次の配置は日本の病院によくあるパターンです。あなたなら、どの病院で手術を受けたいですか?

①麻酔科医12人(このうち2人は研修医)、手術室8部屋
②麻酔科医2人(研修医1人)、手術室6部屋
③麻酔科医20人(研修医10人)、集中治療室やペインクリニック、研究も行っているため手術室内で働く麻酔科医は3人、手術室は12部屋
④麻酔科医が勤務していないため、外科医が麻酔を行っている

①麻酔科医が1人で麻酔を担当したり、研修医に教育をしたりしながら麻酔を行います。8部屋の手術室に対して10人の麻酔科医がいれば、手術中にトラブルが発生しても複数の麻酔科医が治療に当たれるため、安全性は非常に高いです。

②麻酔科医が足りないので、1人の麻酔科医が同時に複数の麻酔をかける「並列麻酔」が行われます。麻酔科医はリスクが高い部分の業務を行った後、次の手術室に向かいます。代わりに研修医や看護師が全身管理と監視を行います。日本麻酔科学会は並列麻酔を推奨していませんが、多くの病院が行わざるを得ない状態になっています。

③心臓手術や移植などの大手術を多く行っている大学病院などによくあるパターンです。研修医が12件の手術麻酔を担い、3人ほどの麻酔科医が監督します。患者の誰かにトラブルが起きればたちまち手薄になります。学会はこの状態もよいものとしていませんが、多くの大規模病院がやむを得ず行っています。

④このような病院がどれほどあるかという実態は明らかになっていませんが、存在するのは事実です。外科医が患者の全身を管理して生命維持となる麻酔を行いながら、同時に手術を行うことは困難です。ただ、離島やへき地などでは、麻酔科医がいないために外科医が麻酔を行なわざるを得ない実情もあります。

 ①は安全性が高いですが病院経営上の負担も大きく、④は安全性が低くなります。病院が患者から麻酔科医の体制について尋ねられた場合、①なら胸を張って答えられますが、②③④なら各病院の事情によって異なる答えが返ってくるでしょう。
 問題は、こうした病院による麻酔科医の体制の違いが、患者側にほとんど見えていないことです。
 腕のいい麻酔科専門医を雇えれば、患者の安全につながります。しかし、1病院当たりの全身麻酔件数は1カ月に43件で、厚労省が決めている麻酔技術料では、十分な麻酔科医を雇うには難しいという問題もあります。安全を数値化することも難しく、麻酔科の充実を後回しにせざるを得ない病院があるのも現実です。

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