患者を支える11
NPOファミリーハウス
*このコーナーでは、様々な疾患の患者団体や患者会がどのように患者さんを支えているのか、ご紹介していきます。
がんや重症慢性疾患に子供がなった場合、ほとんどの親は長期に渡って家を離れ、泊まり込みながら付き添うことになります。家族の経済的負担を和らげ、また不安で張り裂けそうになっているその精神的負担を和らげるための専用施設として、そのような家族が一泊千円や二千円で泊まれる安価な非営利滞在施設が現在、全国に約70運営団体125施設あります。
今では珍しくないこのような施設ですが、92年までは日本に存在しませんでした。米国に74年からある滞在施設『ドナルド・マクドナルド・ハウス』の存在を知った国立がんセンター中央病院の患児のお母さんたちが、同じような施設を欲しいと91年に運動を始め、当時の同病院小児科医長や同じく看護師長を含む様々な人々の協力を得ながら開設に漕ぎ着けたものが第1号だったのです。
このお母さんたちの運動の流れを引き継ぎ、草分けの団体として現在も都内9施設55部屋の運営を行っているのが、「NPOファミリーハウス」です。
事務局は、東京は秋葉原駅と浅草橋駅からちょうど等距離、神田川のすぐ脇の小さなビルの2階です。お邪魔すると、植田洋子事務局長、小山健太さん、池田志穂さんの3人が迎えてくれました。
ファミリーハウスには、有償スタッフが12人もいます。施設を24時間365日管理運営するのがメインの仕事なので、そのシフトを組むと、それだけ人数が必要なのだそうです。運営に必要なお金を集めること、広報活動を行うこと、全国のネットワークと情報交換すること、ボランティア(会の活動参照)にいつ何をお願いするかコーディネートすることなどが主な事務局の仕事です。
支えられた人が次を支えるリレー
「小児疾患の場合、健常児の母という真水の世界で生きてきたお母さんたちが、わずか数日の間に患児の母という海水の世界に放り込まれることになり、環境の激変が大変な苦痛となります。私たちは、両者が交じり合い溶け合うことのできる汽水域を提供したいと思っています」と、植田事務局長は言います。大学で心理学を学び、企業に勤める傍ら「いのちの電話」相談員や子どもの虐待防止センターの相談員などをしてきましたが、98年に会が電話相談を始める時に誘われて、参加するようになったそうです。
「私たちの特徴は、スタッフが私のように第三者であることです。施設利用の経験者が中心になるべきでないかとの意見も過去にありましたが、お互いに補う合う形で今のような組織になっています」。第三者中心であるが故に、患者サポート団体としては珍しくスタッフの世代交代にも成功しており、植田氏は4代目の事務局長です。
さて、施設の必要性を否定する人はほとんどいません。一方で、そういう施設があるということを知っている人もまた、ほとんどいません。
「認知度が低いこと、私たちの努力が足りないことは認めざるを得ませんが、まずは現在の施設を存続させていくことが最大の使命です。無理して歪めることなく、ゆっくりと維持しながら半歩ずつ進むしかないと思います」と植田氏は言います。施設の維持運営ひとつとっても、そんなに簡単な話ではないからです。
「施設によって規模も形態もバラバラで、その運営方法も個々に試行錯誤を続けています。その多様性ある中に、多様な背景や能力を持ったボランティアの方をコーディネートしていくのが嬉しく感じることであると同時に苦労しているところです」と、小山さんが説明してくれました。
施設が多様性を持っているのには、歴史的な理由があります。例えばファミリーハウスの運営する9施設のうち最も古く93年にオープンした「かんがるーの家」は、バブル期で土地建物などを提供してくれるような企業の出てこない中、22歳の息子を血液がんで亡くした篤志家が場所を提供してくれてできたものです。対して最も新しく05年にオープンした「ひつじさんのおうち」や「みどりのおうち」は企業が社会貢献として自社物件を提供してくれたものです。
全国の同様の施設についても当初は、個人の善意を集める市民運動として展開されてきたものが、2001年以降は企業が物件を提供したり、厚生労働省が施設建設費に補助金を出したりと、大掛かりなものになってきたのです。当然、運営形態は全く異ならざるを得ません。効率を考えて、どちらかに合わせるというのも、出発の精神を考えるとあり得ない話です。
「皆が自分にできることをして支えあう、その心を大事にしています。利用者も一方的に支えられるだけでなく、できることはしてもらいます。支えられた人がやがて支える側に回る、この循環ができずに一部の人の善意だけに頼っていると行き詰まりかねません」と植田氏は言います。
「私たちのようなハウスは、どこにいくつあればよいのか、今後どう社会に位置づけていけばよいのか、日々悩んでいます」
会の活動 後援会費は個人2000円、法人10000円。 ボランティアは、個人で登録している人が約160人いるほか、企業の社員がまとまって手伝いに来てくれることもある。主な役割は、掃除など施設のハウスキーピングや、施設備え付けのパソコンを常に誰が使ってもいいような状態にメンテナンスしておくこと、寄付してくれた人へのお礼状書きなど。施設には免疫能の落ちた患児が一時外泊することもあるので、部屋を清潔に保つことが重要。 施設利用料金は、1人1泊1000円。申し込みは月曜から土曜の10~18時に、tel 03-5825-2933 へ。 その他の連絡や相談は、Tel 03-5825-2931