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梅村聡の目⑨ 情報選択する「患者力」 身につけ、よい医療を


感じ方は聴衆に委ねる

 シンポジウムで加藤医師は、事件当時の様子から逮捕拘留中の状況、ご遺族への気持ちまで、丁寧に語りました。淡々と真剣に語る姿が聴衆の共感を呼び、目頭を押さえる方も多数見受けられました。
 今まで国民は、テレビや新聞を通じてしか情報を手に入れる手段がありませんでした。対立構造を所与のものと考えるマスメディア、情報流通で理解を深め合い協同をもたらそうとは考えないマスメディアによって編集された情報しか、国民は得ることができなかったのです。しかし今回、元被告の生の発言、医療と警察・司法は相性が悪いという意見や地元事情など、マスメディアになかなか出てこない情報を知ることができたと思います。
 これを参加された方々がどう感じ判断されるか、私たちが無理強いするものではないと思っています。「妊婦さんが死んだのだから逮捕は当然」なのか、「こんなことがまかり通ったら医療全体が崩壊してしまう」なのか......。自分の医療にもつながっているものとして考えていくことが、患者としての「力」を養うことになると思います。前回の中医協フォーラムもそうでしたが、まずはその機会を提供することが、私の役割だと思います。

三つの約束

 今回のシンポジウムを踏まえ、私は政治家として三つのことに取り組む約束を、皆様にいたします。
 一つは、妊娠・出産に関する正しい知識を国民の方に持ってもらうことです。これは厚生労働省も一緒にやっていくことだと思いますが、「リスクの高い妊娠」というものが存在し、それは可能であれば避けるべきものであるということを国民に理解してもらわねばなりません。たとえば超未熟児が国内に増えている背景には、高齢出産(35歳以上の出産)や人工授精があります。それらが悪いというのではなく、様々なリスクを内包する可能性が高くなることを理解してもらえば、行動変容にもつながるのではないかと思います。
 二つ目は、医療で不幸なことが起きた時の話し合いの場、あるいは調査委員会をしっかり作ることです。現在、医師法21条に基づいて、医療関連死が起きた場合に警察へ届け出が行われていますが、この法律の運用には問題があります。明治時代からある内容で、流行病や行き倒れなど公衆衛生上の問題があると思われる「異状死」に遭遇した場合に医師は警察署に届けるというものです。当初の届け出先は内務省の出先機関としての警察署でした。戦後、内務省から厚生省が分かれたにもかかわらず、つまり警察庁と厚生省が分かれたにもかかわらず、法律上では「警察署へ届け出る」ということが外形上、残ってしまいました。
 医師法21条のそもそもの目的から考えれば、「医療関連死を警察署に届け出ること」はおかしいのです。警察に届け出るべきなのは、犯罪や虐待の恐れがある場合のみです。しかし「異状死には医療関連死が含まれる」という解釈が、このような誤った法運用を引き起こしているのです。事故を調査する組織についても、警察を入れる前に、まず院内で話し合う場を作り、その場がうまく機能しているか外からチェックできる仕組みにする必要があります。「警察へ行ったら解決しますよ」というのは法的な側面だけで、医療的な真相究明や再発防止はできないし、遺族側の感情も癒されません。
 さらには不孝な事案が起こった場合に医療者が誠意を持って、患者さんや患者さんの家族と話し合い、できる限りの納得を得ることも、「医療の一部」なのです。こういった仕事を「医療の外側の話だ」「外部機関に任せよう」と医療側が考えるようになれば、徐々に医療そのものに対する信頼度が落ちていきます。話し合い・同意・納得ということをめざす姿勢が大切なのだと考えます。
 三つ目はお金の話です。医療に本当はどの程度のコストがかかるのか、試算を皆さんにお示しします。例えば、1カ月に16日以上救急患者さんを診ている急性期病院で当直をして夜中に救急患者さんを1時間以上診療したら、労働基準法上、本来は超過勤務手当が発生します。しかし現状は、払われていなかったり、宿直料という名の報酬に含まれていたりします。
「本来あるべき救急医療体制を整備した場合、必要な医療スタッフの人件費としてこれだけかかるから、税金や保険料はこれだけいただきますよ」という明細をまず出す必要があります。医療費総額を増やす必要があるから消費税を上げるというような漠然とした話では、皆さん納得しないでしょう。現状は、値段のない時価のすし屋に入っているのと一緒です。皆さんが満足でき、安心を担保できる医療体制を作るには、これだけのコストが必要ということを皆さんにお見せした上で、医療費を決めていく必要があります。
 以上三つを実行し、国民の皆様に還元していきたいと思っています。

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