仙谷由人・衆議院議員インタビュー
――民主党案はどこが違うのですか。
民主党は、今国会に医療関連で3法案を提出しました。最初に持ってきたのが「がん対策基本法案」です。総理大臣ががん対策本部の本部長を務めると書き込みました。縦割り打破の仕掛けです。政府案のように厚生労働大臣が本部長をしても、文部科学省や総務省は関係ないといって、今までの構造と大して変わりません。
「がん」を採り上げたのは、がんだけやればよいということではなくて、医療の矛盾を象徴する一つの突破口になると思ったのです。3人に1人はがんで死ぬ時代で、世の中の誰もが身内や知人をがんで亡くしておどろおどろしく感じていますから、「がん」という言葉が入ると一気に注目されるようになります。
二番手の法案が「小児医療緊急推進法案」です。何年も前から学会とも連携して勉強している人がいたので問題のありかをかなり指摘できたと思います。今国会は、この「がん」と「小児科」の二本立てで政府案との違いを打ち出していこうと考えていました。
正直、産科がこんなにボロボロとは気づいていませんでした。
――産科の問題にいつ気づいたのですか。
福島県立大野病院の医師の逮捕の時には、まだ危機感がありませんでした。起訴の日になって、これは大変なことだと気づきました。押っ取り刀で、臨床医の方々にもご協力いただき20分だけ国会質問をしました。その質問への反響に驚きました。こんなに反響があったのは、議員になってから初めてです。主に医師の方々から届くメールの中身が熱く、濃いうえに、いまだに届き続けています。
――反響に、どんなことを感じましたか。
勤務医の人たちは、こんなにもじっと耐えて、世の中に訴えたいことを抱え続けてきたんだなあと感じました。
とはいえ、これまで勤務医が余りに声を挙げなさすぎたのも確かです。医師たたき、政治家たたきなどなど、すぐヒステリックに叩かれるご時世ではありますけれど、「我々はこんなに立派にやっているんですよ」「正当に評価せず、こんな政策ばかり進めていくと良い医療・治療になりませんよ」と堂々と意見表明すべきだと思います。
そのことが分かれば国民の側からも、公的医療費がもっとかかるとすれば自分たちで負担するよ、という声だって出てくるはずです。結局医療に関しては、安かろう悪かろうが一番マズイと思います。NHSへの支出を絞りすぎたイギリスではに、優秀な医師を海外や自由診療へと流出させてしまいましたが、日本でも医療費総額を上から締めることを自己目的化すると同じようなことが起こります。がんの手術が1年待ち、抜歯が3ヵ月待ちなんて状態だったらしいですからね。慌てて医療費を5割増しにしてみたけれど、一度崩壊したものがなかなか元に戻らないとも聞いています。
いただいたメールの中で印象的だったのが、大野病院の医師が逮捕・起訴されたのを「医療界の9・11だ」と評したものです。労働環境の劣悪な点に関しては「私がいなくなると患者さんが困る」と踏みとどまって来たマジメな医師たちが、「ここまで献身的にやって逮捕までされるのか」と警察のテロで心を折られたというんですね。早く中央政府が本腰を入れて対策を取らないと、10年経つ間にイギリスと同じ状況になってしまいます。