山田憲彦・防衛医大教授インタビュー
山田憲彦 防衛医大教授
―― 最近、災害時の医療対応のあり方を含め、医療・病院の危機管理に関心が高まっているように思います。つきましては、患者さんにも分かりやすいように解説していただけないかと思って参りました。
病院の危機管理というと、大きく分けて2つの面があります。災害など普段と異なる状況下で、傷病者が普段と桁違いに集中発生する一時的なニーズに応えること、それから、病院そのものの機能が失われる中で入院患者さん・手術中の患者さんをサポートする機能を継続することの2つです。
危機管理で難しいのは、その時になってみないと準備ができているか判明しないことです。しかも、この準備は普段の病院にとってあまり得がありません。
―― 得がない。
今の時代、病院経営が厳しいので、診療を休んで訓練するのは基本的に難しいのです。患者さんの理解も得にくいのではないでしょうか。とはいえ、病院に得がないからといって、やらなくて良いかと言えばそんなものではありません。
そもそも医療の危機管理が注目されるようになったきっかけは、阪神・淡路大震災です。この震災への対応にかかわった方々が一生懸命やられた事は誰も疑いを挟むものではありませんが、もし準備や体制ができていれば、死者6千人のうち一定部分は救命できたのでないかと見られています。通常レベルの医療が提供されていれば防げた死、これをプリベンタブル・デスと呼びますけれど、これをできるだけ少なくするというのが、大震災以降、災害時の救急医療体制に関する国家的な目標になっていると言えます。
この方針に沿って、南関東、東海、東南海・南海の3ヵ所については、内閣府を中心に災害医療計画が策定されています。厚生労働省もDMAT(災害医療派遣チーム)制度を設けていますし、防衛庁も搬送ニーズに応えようと、航空自衛隊に10月に患者搬送チームが発足しました。
国の重要な対応方針の一つとして、被災していない地域へ重症患者を搬送する等の広域対応があります。このような対応においてキーとなるのは災害拠点病院の活動です。災害拠点病院は、イザという時、地域のみならず全国の出来事への対応も求めらる訳です。
しかし、先ほども申し上げたように、災害拠点病院の患者、管理者、現場医療者にとって、こうした災害への備えの必然性や蓋然性を、実感をもって理解することはなかなか困難です。もちろん、皆、頭では理解していると思いますが実感の伴わない分、どうしても後手後手の対応になる、これが現状だと思います。
- 前の記事松澤佑次・住友病院院長インタビュー
- 次の記事福島県立大野病院事件第一回公判