山田憲彦・防衛医大教授インタビュー
そうですねえ。患者さんが、急な時に頼りたいと思うような地域の拠点病院が普段の救急で手一杯という状況は問題です。救急に関係する病院は重要なリソースとして、余力を持てるように見ていただければ勇気づけられます。余力を持つのは、運営者や現場の思いだけでは達成できません。ポリティカルマターとして、国民の皆様に応援していただければと思います。
―― 普段の救急で手一杯にしないよう、不急の時に救急を利用しないよう心がけたら良いですか。
オーバートリアージは許されると思いますので、救急を利用するなというのは言えません。ただ救急車が疲弊していることは確かなので、その適切な使い方を考えていただきたいと思いますが、不安があったら遠慮なく救急を利用するべきだと思います。
これまでの救急は分散型で、近場で対応するという発想でした。しかし、分散していると、たとえば救急施設ごとに外傷専門の医師と麻酔医が24時間待機しているような状態を作るのは不可能です。広域対応が国の政策として明確になってきました。日常のニーズと広域対応との整合性を取るためには、集約化とヘリ搬送の充実とが表裏一体で必要なんだと思います。地域の特に高度な救急医療機能を拠点病院に集約することも必要かと思います。災害時には遠方からの支援医療チーム(DMAT等)との協同や広域搬送も必要になりますので、大型空港とのアクセスが良い拠点病院の充実強化はとても重要だと思います。
―― 患者として他にできることはありませんか。
普段から「もっとヘリを使って欲しい」とか、「なぜ、たらい回しするのか」といった声を行政・政治へ挙げ続けることでしょうか。そもそも地域の調整機構が日頃から働いて搬送体制がしっかりしていれば、たらい回しは相当減少させることができます。現状は搬送力が弱いし医療機関も必要な情報の共有ができていません。
我々は阪神・淡路大震災の際に、なぜこの程度の重症度の患者さんが亡くならねばならなかったのかということに愕然としました。それがあきらめきれないから、今こうして危機管理の議論をしています。仕方ないと思ったら進歩はありません。そう簡単にあきらめてはいけないし、日本にはそれだけの潜在能力はあります。問題は、社会全体が組織立って動けるかです。「社会全体が動く」ためには、危機感が一般の人にも共有されることが必要です。
名医ブームですが、どんな名医でも1人で診られる人数なんてタカが知れています。災害時は、医療者のみならず多くの方々の協力が必要ですが、このためには、広く皆様のご理解と協力が必要です。一緒に声を挙げてほしいと思います。
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