潜在助産師の実態?助産師増加数と養成校卒業就業者数に約1000人の差-産婦人科医会
日本産婦人科医会(寺尾俊彦会長)が公表した、助産師の数に関するデータが興味深かったので紹介したい。養成校からは毎年約1300人の助産師が卒業して医療機関などに就職しているが、全体で働いている助産師の数自体は平均で前年比約300人程度しか増えていない。定年で辞めていく人もいるとみられるが、同会の神谷直樹常務理事は多くが"潜在助産師"になっているとして「家庭に入っているのではないか」との見方を示している。(熊田梨恵)
医師や看護師不足などの医療従事者の不足の中で、助産師不足もかなり深刻だという声は多い。「潜在看護師」とともに「潜在助産師」という言葉も言われているが、実際のデータはちょっと時間や手間をかけて調べなければ出てこない。14日に医会が開いた記者懇談会のデータがまとまっていて興味深かったため、ここにまとめて掲載しておきたい。
厚労省の調べによると、助産師は2007年時点で2万7927人。最も少なかった1992年の2万2690人から毎年微増で推移している。
しかし、日本産婦人科医会は2005年の調査で、同会が「理想的」としている1施設当たり6-8人の助産師の数を満たすには、診療所で4203人、病院には2515人の合計6718人が足りないとの試算を示している。
<以下に示すデータは、すべて日本産婦人科医会が示した資料>
ただ、医会が示した資料から助産師等養成校の毎年の卒業者数を見ると、毎年1300人前後は卒業しており、病院や診療所に就職している。
一方で、国内全体で働いている助産師の数を前年比で見てみると、06年は305人増、07年は575人増という程度。03年には153人減っていた。平均すると毎年、前年比で328人の増加だった。
このデータについて神谷常務理事は、「2008年には1454人が卒業している。でも実際増えているのは300何人。これは辞めている人が何人もいるということ」との見方を示し、離職する助産師については、「家庭に入っているのではないか」とした。
<ミニトピック・・・産科崩壊に拍車をかける助産師不足、その一例>
産科は"医療崩壊"が最も顕著に表れている診療科の一つと言われているが、これに拍車をかけたのが「福島県立大野病院事件」と、厚労省が2007年に出した、看護師の内診問題に関する通知だとされている。子宮口の開き具合などを診る内診について、厚労省は医師の指示のもとで助産師が行う業務だと示している。しかし、06年に横浜市内の病院で、看護師や准看護師が内診を行っていたことが問題になり、厚労省は「看護師は内診を含む分娩の進行管理をできない」などとする内容の通知を出した。しかし、助産師不足などから看護師が内診など助産師の業務を手伝うことは多くの現場で行われてきていたため、助産師を雇うことができない産科開業医からは「これでは閉院せざるを得ない」との声が上がり、多くの産科クリニックが閉鎖したといわれている。
助産師不足は周産期医療界にとって大きな問題で、助産師の権限拡大なども言われてはいるが、業界団体の争いの種になってしまい議論は困難を極めている。厚労省は院内助産所の整備の支援も進め、潜在助産師の掘り起こしなど人材が不足する助産師の活躍の場を広げようとしている。