「政権交代が医療崩壊の解消に向けた第一歩と期待していた」
「医療崩壊の解消に向けた第一歩と期待されたこの診療報酬改定が、単なる医療崩壊の診療所への拡大という事態に立ち至るだけではないのか」─。診療所の再診料を引き下げるか、その判断は国民を代表する立場の公益委員に委ねられたが、診療所の立場を代弁する委員の訴えは届かなかった。(新井裕充)
手術や検査など医療の価格を審議する厚生労働相の諮問機関・中央社会保険医療協議会は、健康保険組合などの代表7人(支払側)、医師や歯科医師らの代表7人(診療側)、国民を代表する立場の公益委員6人のほか、専門委員などを加えて審議する。支払側と診療側の意見がまとまらない場合、最終的には公益委員が決着を付ける(公益裁定)。
※ 中央社会保険医療協議会(中医協)について、詳しくは「中医協って知ってる?」を参照。
4月の診療報酬改定に向けて2月10日に開かれた中医協で、診療所の再診料は前回2008年度の診療報酬改定と同様、「公益裁定」で決着した。診療所の再診料は4月から2点引き下げられて69点になる(1点は10円)。
前回改定で、診療所の再診料は71点のまま維持された。ところが今回、公益委員は2点引き下げて69点とする案を示した。厚労省の試算では診療所の1点は約100億円なので、2点の引き下げは診療所全体にとって約200億円の減収につながる。
公益委員の提案に対し、安達秀樹委員(京都府医師会副会長)は個人診療所の立場から次のように抗議した。
「今回の診療報酬改定というのは何であったか。政権が交代し、新政権の公約等々から見られるように、これこそが医療崩壊の解消に向けた第一歩の診療報酬改定になるということを私どもは期待していた。しかし、ふたを開けて見れば、入院(4400億円)、入院外(400億円)という異例の財源枠が財務省主導の中で設定された。政権公約の通りであれば、(外来管理加算の)5分間要件の撤廃によって同加算の算定回数の復元ということを期待したにもかかわらず、事実上、これも我々としては(再診料の引き下げを阻止するため)放棄せざるを得なかった。我々医療界は病院経営者も、そして勤務医の皆さんも診療所の再診料引き下げに反対してきた。それは、我々医療者が日本における医療提供体制の中で、大学病院から診療所までが一体となってこれを構成していると理解しているからであり、このいずれの要因が衰弱をしても、日本の医療提供体制は破綻し、そのことによって医療を必要とする方々に大変大きな不利益を与えることになると認識しているからである。この2点の引き下げが個人診療所の経営体力を一層弱めることになる。これでは、医療崩壊の解消に向けた第一歩と期待されたこの診療報酬改定が、単なる医療崩壊の診療所への拡大という事態に立ち至るだけではないのか」
安達委員はまた、「今回ほどの財源がなかった前回の改定においても一般診療所はこれほどの扱いは受けていない」と指摘、「個人診療所を代表する私の立場としては、この裁定を許容することは到底できない」と述べて一時退席した。詳しくは3ページ以下を参照。
【目次】
P2 → 「支払側は公益裁定案を受け入れたい」 ─ 白川委員(支払側)
P3 → 「医療崩壊の解消に向けた第一歩を期待した」 ─ 安達委員(診療側)
P4 → 「強い抗議の意思を持って退席させていただく」 ─ 安達委員(診療側)
P5 → 「少し2号側で協議させていただきたい」 ─ 嘉山委員(診療側)
P6 → 「ご納得を頂くことを前提で案を出した」 ─ 遠藤会長(公益側)