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ニュース〜医療の今がわかる

被災地の患者と受け入れ先のマッチングが必要―長尾和宏・長尾クリニック院長


■被災地以外の場所で安心する時間を

「受け入れ先は、日本全国でも近隣でもいい。希望を聞きながら、関西でもいいですよと。今は受け入れ先ができましたと言っても受け入れられていない状況です。患者さんには『避難』『疎開』『一時滞在』......、どういう言葉がいいのかは分からないけど、まずは考える時間がいるんじゃないかと思います。僕の阪神淡路大震災の経験では、身内を失った方はその場所に戻りたくないと言うんです。そこに戻ったらフラッシュバックするからと。皆さんあの時の場所から離れたところで暮らしていて、16年経ってもいまだにそこに行ってないという人もいる、それが現実なんです。よう戻らんのです。『戻ることが地域やコミュニティの維持にいい』というのは今の段階で言われていることであって、実際はみんな戻ってないです。地域やコミュニティの復興というけど、そんな簡単ではないと思います。そりゃ戻りたいですよ、住み慣れた所に。でも戻れないということもあるんです。いわき市から来られている彼らが教えてくれるのは、着の身着のままで来られた彼らが『ここも良いではないか』と言われているわけです。そして願わくは新幹線に乗れるお金があったら、週に一度ぐらいいわき市に帰って、様子を見て。そうやって行き来しながらの復興もありだし、実際に原発の問題も津波もまだ終わっていないです。先日も大きい余震がありましたし、津波も起こるかもしれない。こういうことが年単位起き続けるのかもしれないとしたら、失くされた家をすぐに建てると言うのは難しいところもあるんじゃないでしょうか。もちろんコミュニティを大事にというのはそうだと思いますが、彼らからは考える時間が必要だということを学びます。被災地県外の方々と話したり、普通に物があるところで安心するという時間です」

■地域の在宅医で患者を吸収する

「西日本で患者さんたちを吸収していったらいいと思うんです。地域の総合医、在宅医がいるんだから、二人ずつぐらい見ようとやっていったたらいいんです。たくさんは無理だから、二人だけでいいから受け入れてくれと。みんなが少ない目標をクリアしたら十分受け入れられると思うんですね。散らばって各地でやっていったらそんな医療側にも負担にならないし、みなさんもいろんな地域に行く事にはなりますが、家族という単位があれば大丈夫だと思うんです。今、ニーズは慢性期にシフトしてきています。今こそ在宅医療と慢性期病院の出番で、積極的な連携が必要だと思います。『地域包括ケア』という概念が言われていますが、これから各地域で後方支援をしていく時、まさしくこれが包括ケアになっていくのではないでしょうか。看護師や薬剤師、民生委員など様々な職種が入って。これから、地域の開業医のあり方が問われていくと思います。こういう時に活躍しないでいつ活躍するのかと思います。
昨日もね、僕の在宅患者さんで89歳になる高齢の女性がおられるんですが、夜中に突然電話がかかってきて何を言うのかと思ったら「福島県浪江町の小学生が大阪の平野区に転校してきたのでランドセルとお金を持っていきたい。どうやって行ったらいいか教えてくれ」と言うんですよ。自分では動けない89歳の方がタクシーに乗って行くと言うんです。『それはさすがに無理やからやめとき』と話しましたけど、でも皆さんそういう気持ちがあるんです。みんながそうやって各地域で受け入れたらできると思う。彼らも癒されてほっとすると思います」

■移動代と現金支給を

「だから避難している方が被災地と行き来できるように新幹線を無料にしてもらいたいと思います。お金は義援金からJRに出したらいいと思います。それぐらいしないといけないと思います。彼らが被災地に帰るのは、聞いていると雑務のためなんです。そのために移動が必要だけど移動が高い。普段でもお金がないのに、今回全部なくなっているんです。家財道具といったら、やっぱりどんな人でもかなりの額になるので、皆さん絶対不安だと思います。これから生きて行くのに先立つものはお金です。だからまずはお金を現物支給してもらいたいと思うし、乗り物も医療と同じように現物支給ということでいいのではないかと思います。

■被災地の医療者を休めたい

「今、被災地の医療者がとてもかわいそうな状況です。自分たちだって家族がある被災者なんです。被災者が被災者を助けるというその重みは、二重苦のようなものです。私も阪神淡路大震災の時にそうでしたが、それは理不尽だと思うんです。せめて誰か助けてくれよと。だから、今は代わるよと言って、彼らを休めてあげなければいけない。医療者だけじゃなくて介護者もそうです。彼ら自身も傷を負っていて限界があり、ただでさえ医療や介護が大変なのに、物品も人もいない。だから逃がさないといけないので、そういう前方支援と後方支援をバランスよくやりたいと考えているんです。なかなかうまく言えないですが。僕も近いうちに行きたいと考えています。ただ、自分のクリニックのスタッフが減ったばかりで大変な状況があります。自分の目の前の人をほっぽり出していくことに意味があるのかとは思っているのですが...。見てみないと本当のニーズは分からないと思います」


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