被災地の患者と受け入れ先のマッチングが必要―長尾和宏・長尾クリニック院長
3月11日の東日本大震災により、被災地以外への患者の移動が必要な一方で、西日本をはじめとする受け入れ可能地域に避難者が移れていない現状がある。「こちらから『来い来い』と言っていても彼らは来られない、今はそういう状況。だからこちらから現地に情報を持って行って直接コーディネートするしかないと思う」と、自ら現地に赴く予定と話す兵庫県尼崎市の開業医長尾和宏氏(長尾クリニック院長)の話を聞いた。(熊田梨恵)
3月11日の東日本大震災では、医療機関や介護サービス事業所も被災したために、被災地以外での代替が必要になっている。例えば人工透析を受ける患者は週3回、1日4~5時間の治療が必要になるため、対応可能な地域に迅速に移らなければいけない。日本透析医会は国内で約1万8000人の患者を受け入れられるとしており、西日本でも約1万人の受け入れが可能になっている。ところが、約400人の透析患者を受け入れる一時避難所を用意した大阪市では、いまだに受け入れゼロという状況。患者の移送と受入のマッチングが進んでいないと見られる。
長尾氏は自らが被災した阪神淡路大震災を振り返りながら話した。
「私はあの頃市立芦屋病院に勤務していましたけど、震災直前までは200人弱だった入院患者さんが震災後には約1000人にまで増えていました。病院のキャパシティを完全に超えていて、リハビリ室やいろんなところに患者さんが溢れて野戦病院と化していました。特にクラッシュ症候群(圧迫されて挫減した筋肉から出た有害物質が全身をめぐり、腎不全となって最悪は死亡する)のような方がたくさんおられたんです。クラッシュ症候群は非常に死亡率が高いので、患者さんは一刻も早く人工透析をしないといけない。だから転送したかったのですが目の前の患者さんを助けることにみんな必死で、救急車もなくて出せなかったりしました。重体の患者さんがどんどん増えていく中で、もう絶望的な気持ちでした。でもあの時は『来ないんじゃなくて来れないんだ』と気付いて下さった大阪市医療センターの方々が、自ら飛び込んできて下さった。『先生、何人でも患者を無条件に受け入れますので、どんどん送って下さい』と、僕は神様が来たのかと思いました。これは急性期の話ではありますけど、現地は似たようなことが起こっているんだと思います。被災地では患者さんを外に出そうと思っても、いろんなことがあって出せない。どこに出したらいいのかも分からない。今は問題が慢性期に移ってきています。だからこっちから入ってコーディネートするしかないんです」
■医師のコーディネートが最適
「私は近いうちにコーディネーターをやろうと考えています。医師がコーディネートするのが一番いいと思うんです。通常は医療ソーシャルワーカーがコーディネーターで、臓器なら臓器移植コーディネーターがいる。でも今は状況が違います。最終的には医師同士のやり取りになってきます。それに医師はその人のことを一番よく分かっているし、コーディネートする時には、患者さんへのカウンセリングもしますよね。『あなたはどんなところ行きたいですか。それなら近くにこんな病院あるから行きましょうか』と。体調管理的な部分は看護師さんにお願いしたらいいと思います。医者は現地でコーディネートすることが必要じゃないかと思います。今は無計画に被災地に入るんではなくて、前方支援なら前方支援、後方支援なら後方支援と、どちらかを明確にしないといけない時期に来ていると思います。今は司令塔がいないです。広過ぎるんですよね。大き過ぎて全貌が分かる人なんて一人もいない状態で、時間が経つとマクロ的に分かってはきますが、今はまだよく分からない時期だと思います。たんぽぽクリニック(愛媛県松山市)の永井康徳先生たちが始めておられる気仙沼市での在宅医療支援のプロジェクトもありますけども、その他にももっとたくさん必要です。こちらから情報を持って行って、その場で患者さんに『どう?』とマッチングするのが大事で、こちらにいて『来い来い』と待っていても絶対来ないと思います」