文字の大きさ

ニュース〜医療の今がわかる

「平穏死の10の条件」―長尾和宏日本尊厳死協会関西支部長が講演

長尾氏.jpg 「平穏死できない現実を知ろう」「救急車を呼ぶ意味を考えよう」-。兵庫・尼崎市で在宅医療を続ける長尾和宏氏(日本尊厳死協会関西支部長、長尾クリニック院長)が10月26日、「平穏死の条件」をテーマに神戸市内で講演した。(熊田梨恵)

 尊厳死や在宅看取りに関する知識の普及啓発のため、日本尊厳死協会関西支部大会内で開かれた。

◆「尊厳死」
 「尊厳死」について同協会は「不知で末期の患者が本人の意思に従い、生命維持装置による延命治療を断るが、痛みの除去などの十分な緩和ケアを受け、人としての尊厳を保ちつつ、安らかに自然死を遂げること」と定義しており、「死を早める積極的安楽死や自殺幇助を尊厳死とは考えない」としている。
 尊厳死に関する各国の動きは、1981年に世界医師会がリスボン宣言で尊厳死を容認し、1992年には日本医師会も容認。オランダには安楽死法(2001年)、フランスには終末期患者の権利法の「レオネッティ法」(2005年)など、各国の考え方や基準による「尊厳死」を認める法律がある。日本では現在、患者が自ら延命治療の中止を望んだ場合であっても医師が治療を差し控えらると罪に問われる可能性がある。これまでにも、家族の了承を得て呼吸器を外した医師が書類送検された「射水市民病院事件」、家族の要望でがん末期患者に塩化カリウムを投与した医師が殺人罪に問われた「東海大学事件」などが起きている。また医師法20条と21条に対する見解が分かれている(2,3ページ参照)ことなどもあり、延命治療に関する扱いは非常に敏感な問題になっている。
 日本では今後見込まれる高齢者人口の増加に伴い、延命治療の差し控えを容認するガイドラインや法律を求める声が医療者などから上がっていた。こうした動きを受け、2005年には「尊厳死法制化を考える議員連盟」が発足し、2007年には厚生労働省から「終末期医療に関するガイドライン」が発表されている。同協会は議連や日医と協力しながら、本人の明確な意思があった場合に治療を差し控えたとしても、医師が訴えられないよう定める法律の立法化を求める活動を展開しており、長尾氏によれば「法案の原型までできている」状態だという。

長尾氏の講演内容を抜粋する形でお伝えする。

======================================

私は今、尼崎市で在宅医をしています。これまでに約500人を看取ってきました。勤務医の頃にも1500人ぐらいを看取りましたが、その頃にはただ病院で死を待っている状態の患者さんがたくさんおられて、何かおかしいなと感じてきました。そして今自分が見ている在宅看取りと病院の看取りは、明らかに違うと感じています。

ちょっとこの例を見てみてください。よくあるケースです。腰部脊柱管狭窄症を患い、2年前から自宅で寝たきりの98歳の女性。本人も家族も在宅看取りを希望。食べる量が減って、むせることが増えてきました。ある日、誤嚥性肺炎で発熱、状況を分かっていないケアマネが在宅医に相談せず救急車を呼びました。入院先でさらに呼吸状態が悪化したので、病院の担当医は「延命」を理由に、人工呼吸器を装着させ、胃ろうを造設しました。家族は自宅に連れて帰りたいので病院に往診依頼をしましたが、病院側は「在宅で診ることは難しい」と、退院を許可しません。本来は自然な老衰による在宅死を望んでいたのに、呼吸器や胃ろうを使って老衰に逆らう状態で延命することになります。亡くなる場所は病院です。どう思いますか? それにこういう場合、私に「病院に往診してほしい」という依頼がありますが、そういうわけにはいかないので困ります。この例では、ケアマネの救急搬送が運命の分かれ道だったわけです。

尊厳死、自然死、平穏死という似た三つの言葉があります。平穏死はや自然死は、がんや認知症の終末期をイメージした言葉と考えてもらっていいです。尊厳死は例えば脳卒中、交通事故などで意識が戻らなくなった遷延性意識障害(重度の昏睡状態)の終末期を服ももっと広い概念になります。大体は同じ意味だと考えてもらっていいと思います。

『口から食べられなくなったらどうしますか 「平穏死」のすすめ』を書かれた外科医の石飛幸三先生が尼崎で講演をされました。その時に「国民の8割は胃ろうを望まない。しかし現実では8割が胃ろうを造られてしまう」と話されました。どうしてこういうことになるのでしょうか。これからは高齢社会です。老衰も増え、必ず食べられなくなるのをどう考えるのでしょうか。これまで、国民、医療界、誰も真剣に死や老衰に関わろうとしないで来たという事です。政治家も尊厳死を法制化ができずにきたのは、議論が難しいからではなく、メリットがないからです。票にならないし、誰も褒めてくれません。死が目前に迫っていても誰も直視せず責任回避し、とりあえず「胃ろうを」となります。その結果胃ろうが選択されて、現在40万人が胃ろうを入れています。

僕自身、「延命」には3つあると思っています。まず「栄養」、これは胃ろうやIVH(中心静脈栄養)、そして「人工透析」。先日25年間透析を拒否している患者さんを紹介されました、25年も拒否なんて、結局要らないじゃないかと思いますが。そして「呼吸」で人工呼吸器です。


平穏死の条件は10個あると、独断と偏見で述べたいと思います。

P2→「平穏死の条件」1~5
P3→「平穏死の条件」6~10

1 |  2  |  3 
  • MRICメールマガジンby医療ガバナンス学会
loading ...
月別インデックス