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ニュース〜医療の今がわかる

村重直子の眼18 古川勝久・安全保障/危機管理専門家(上)


村重
「混乱している時に、全体が見える人間というのは実際には存在し得ないからです。現場の方たちも大変な思いをされている中で、誰か情報を統括して、きちんと指示を出してほしいという声を聞きますけれども、でもそれは、人間には分かり得ないものなので、どんなに願っても実現し得ないことなのです。それぞれの現場でそれぞれが見える範囲の中でベストの判断をしていくしかないと思っていて、実際に民の力でこれほどカバーできていた、国が動く前から迅速に動けていたのは、日本が誇るべき底力だと感じています。それぞれの場所で、それぞれの状況が刻一刻と変わっていくわけですが、その時に出てきた問題に対して適した人間が対応しているだけで、あるいは行動力のある人があきらめずに追求することによって実現しているだけのことで、それを誰かリーダーがいたら実現できるわけでもないし、むしろ邪魔になるだろうと思うのです」

古川
「かえってリーダーの存在が邪魔になる、と」

村重
「はい、だって現場の状況を分からない人間が指示を出すことになるので、日本人のようなキメ細かい現場のニーズに合ったオペレーションをするという意味では、現場を知り得ない人間にリーダーシップを期待すること自体、違うんだろうと思うんですね。国の初動が遅いのは、すぐには把握できない全体像を把握してからでないと動けないという発想に縛られているため、情報収集に時間を費やすからだと、今回も感じました。情報収集している間に現場の状況は変わるので、さらに情報収集しなければいけなくなって、現場がかなり安定するまで動けないのですよね」

古川
「それは、安全保障や危機管理をやっている者の立場からすると非常に新鮮というかショックというか・・・」

村重
「逆の発想ですからね」

古川
「私どもが日ごろ付き合っている自衛隊や消防、警察の方々は、逆に、中央司令塔の存在がオペレーションの前提とされています。特に、広域にわたって数十万人の被災者の方々を救援したり、数万人の行方不明者を捜索したり、またはあるいは亡くなられた多数の方々のご遺体を収容する場合には、なおさらトップダウンで指揮命令を下ろして行かないと、部隊は動けません。しかし、他方で今回の災害のように、地元自治体の行政機能が全部なくなってしまった場合には、しかも被災者の方々が点在して孤立している状況では、この中央指揮命令系統に基づくアプローチだけでも限界があるという問題点も明確になりました。こういう場合には、トップダウンで動く行政機能と、柔軟に支援活動を展開する医療コミュニティの方々とが協力しあうことが必要になると思います。医者従事者だけでなく、製薬会社や交通機関等とも協力が必要かと」

村重
「そうですね、NGOや企業の方も、色々な病院の方も、看護師さんや色々な職種、事務の方まで総出で現地に入ってくださってますから。普段は全然関係ない分野の人も色々なグループに志願して加わって現地に入っておられますよね。この日本の民の動きは凄いと思いますよ。一方で、もちろんトップダウンで、大きなオペレーションが必要なもの、大量の物資を運ぶとか、大量の人間の搬送ということになると、国とか、自衛隊や消防、警察など、大きな組織のトップダウンのオペレーションが必要なんですけれど、そういう組織がある程度現場の状況を把握してから命令を出すまでに何日もかかりますよね」

古川
「救急救命という観点からすると、相当に長い時間になりますよね」

村重
「時間が命なのに、時間がかかってしまうのです。だから震災直後にすぐ現地に入って状況を見てきたとかいう迅速さでは、民の活躍が目立ったのだと思います。行政や自衛隊などの動きは後になるので、その前にパっと動けるのは、やはり民間の人たち、小回りの利く、もう少しサイズの小さなグループの人たちです。民の人たちが自律的に、交通手段も通信手段もないような所まで入って行って、かなり広範にカバーしていたのは、日本の凄い底力だと思いますね」

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