村重直子の眼18 古川勝久・安全保障/危機管理専門家(上)
古川
「本当にその通りですね。今回感じたのは、官が持つ能力・リソースと、民が持つ能力・リソースとは、相互に違うわけですが、状況に応じて、お互いにうまく協力しあえばよいのではないか、と」
村重
「かなり補完しあっていると思います」
古川
「ええ、たしかに。補完しあっているスペースを今後、もっと広げられないかというのが私の問題意識です。たとえば村重先生が情報発信された件ですが、航空自衛隊の『空飛ぶICU』を、民間の方々にもご活用していただけないものか。他にも、先ほどお話した通り、在日米軍の部隊がずっと待機していましたが、日本政府の司令塔のオーバーロードで支援要請が出なかったため、うまく活用できなかった事例もあったようです。一方、『地震医療ネットワーク』では、関係者の方々から毎日悲鳴のような声まで含めて、実に様々な情報が寄せられていましたよね」
村重
「リアルタイムで現地から情報が来てましたね。実際に始めるまでは、メーリングリストを作っただけで、あれほどの情報が集まるとは思いませんでした」
古川
「ものすごかったですよね。あれらのメーリングリストに寄せられた情報を、より迅速に、自衛隊や警察、消防等の現場の部隊につなげられるようなことができないか、と。自衛隊や米軍は、いつでも出動準備が整っているわけですし。米軍では、海中の救難救命チームもずっと待機していたそうです。ようやく出動がかかったようですが」
村重
「こうなってしまってからですよねえ」
古川
「ですから、そういう所をよりスムーズにできないか、と。みんなが助けたいと思って待機している。でも指令が来ない限り動けない。もう少しスムーズにできないものなのか。これを今回の教訓としてレビューしたいと考えてます」
村重
「私が思うのは二つあります。一つは、軍とか国の組織と民とのコミュニケーションや連携をどうやってやっていくか。そこは平時からお互いの能力とか、どういう機能を持っているかを知っておけるに越したことはないし、そういう努力も必要なのですが、多分なかなかすべては無理ですし、民間のパワーってイザとなってから有志の人間が動くもので、元々組織だってはいないので、前もって分かっておくということはなかなか難しいですね。でも少なくとも、連絡先が分かるだけでもですね、航空自衛隊が『空飛ぶICU』の相談窓口を示してくださったように、『ここに相談すれば、こういうことができるんだよ』ということだけでも、明確にしていただくといいと思います。
もう一つは、民の方たちも、これほどの力を持って現に物資の搬送や患者さんの搬送を実現しています。それも国の動きより早く動いている人がいっぱいいるわけですよね」
古川
「そこの所、もう少し具体的にご説明いただけますか」
(つづく)