食べすぎ なぜいけないのか。
問題はアブラだけじゃないんです。
最初にも申し上げたように、太らなければ、そして胃腸が強ければ、何をどれだけ食べてもいいというものではありません。気をつけるべきは内臓脂肪やLDL-C値だけでないのも、もちろんのことです。
そうしたものの代表例が塩分(食塩)です。日本では昔から料理や食品加工に塩が多く使われ、味噌や醤油が味付けの基本となっています。そのため食塩摂取過多による高血圧は国民病ともいえ、脳卒中(脳内出血、くも膜下出血、脳梗塞等、07年10月号参照)の発症率が高い要因となってきたとされます。
海外の調査ですが、食塩の摂取量に応じて臓器障害の程度を調べたところ、食塩をたくさん摂っているグループは、血圧には関係なしに、心肥大や慢性腎臓病(CKD、09年9月号参照)を起こしやすいことが分かってきました。日本でも1330万人、8人に1人はCKD患者であると言われます。
のみならず、食塩摂取量が多いほど胃がんの発生率が多いことも、世界的調査から分かってきました。高血圧症の患者であれば、死亡リスクや、心臓発作その他の心疾患・末梢血管系疾患のリスクも高まります。またつい先日は厚労省研究班から「食塩の摂取量が、男性で1日5.7g、女性で同4.5g増えるごとに、介助が必要となる危険性が25%ずつ増す」との調査結果も報道されました。
脳卒中でいえば、近年、その内訳に大きな動きが出ています。動脈硬化からくる脳梗塞の割合が増えているのに対し、純粋な高血圧による脳出血は減ったのです。あわせて、日本人の食塩摂取量は50年前から半減しています。昭和30年代の東北地方では1日約20gという記録が残っていますが、ここ10年の全国平均は11g程度。1日10g減らせば平均血圧が10 mmHg下がることも分かっており、脳卒中の種類の変化には、食塩摂取量の減少による部分も少なくないと見てよいのではないでしょうか。
なお、中国で行われた調査では、メタボリック症候群の要素を4~5種類併せ持つ人は、塩気の強い食事によって高い血圧を示すリスクが、通常より3.1倍高かったといいます。日本人はもともと、遺伝的に、食塩摂取から血圧の上がりやすい体質の人が多いそうですから、なおのこと要注意といえそうです。
ところで番外編としては、何か特定の品目ばかり食べ続けることは、過剰に摂取しないほうがよい成分・物質を摂りすぎる可能性が高い(コラム参照)だけでなく、本当なら他の食材でとるべき栄養が不足する事態に陥りやすいことも、念頭においておくべきでしょう。例えば、菜食主義者はどうしても特定のビタミンが不足し、そのままでは心疾患や脳梗塞のリスクが通常の4倍に上がるという話もあります。
というわけで、大事なのは、総摂取カロリーに気をつけつつ、様々な品目をバランスよく食べること。特に要注意なのが外食やインスタント食品で、たいてい塩分、脂質、ものにより食品添加物も多く含まれています。飽食の時代と言われ、栄養状態の改善が国民の健康向上につながってきた側面は否定できません。それでもやはり「過ぎたるは、なお及ばざるが如し」。食べたいものばかり好きなだけ食べていては、かえって健康を害してしまうんですね。
サプリメント依存も危険です。 このところ世代を超えてサプリメントが流行しています。確かに健康によいとされる成分すべてを食事から十分に得るのは難しく、手軽に摂れる便利さはあるかもしれません。しかし、ビタミンやミネラルでさえ、摂り過ぎないほうがよいものもあるので注意が必要。特にビタミンAやD、Kなど脂溶性ビタミンの場合は、体内で使いきれなかった分が蓄積されやすく、過剰症として障害を起こすこともあります。サプリメントに限らず、日本人にはなじみの深い海草類も、食べ過ぎればヨード過剰となり甲状腺の異常につながる可能性さえあります。とはいえ通常の食生活では過剰症についてはあまり心配いりらないでしょう。