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埼玉・千葉が危ない①

救急医療から見る
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病気やけがで、「一刻も早く病院へ!」と思って119番したら救急車が来てくれました。やれ一安心と思ったのに、救急車がいっこうに走り出しません。救急車が自宅前に停車したまま30分以上滞在するようなことも珍しくありません。これで本当に救急車の意味があるのでしょうか?(論説委員 新井裕充)
(新聞社版・がん研版のオリジナル記事で、本体には載っておりません)

現場で立ち往生
 救急隊員らが現場で何をしているかと言うと、受け入れてくれる病院を探しているのです。あちこちの病院に患者の状態を伝えていますが、断られているようです。受け入れ先の病院が見つかるまでにかなり時間がかかります。いわゆる「たらい回し」とか、「受け入れ拒否」などと報道される状態です。
 つい先日も埼玉県で不幸な出来事がありました。午後10時ごろ、さいたま市内で車いすの女性が乗用車にはねられ、救急車が約10分後に現場に到着しましたが、受け入れてくれる病院がなかなか見つかりませんでした。新聞報道などで「12病院が救急搬送の受け入れを拒否した」などと伝えられました。8病院が「専門医がいない」、4病院が「処置が困難」を理由に断ったとされています。女性は事故発生から約16時間後、搬送された病院で骨盤骨折による出血性ショックで死亡しました。
saitamachiba-1.1.JPG 実は、今回のように、救急車が現場に30分以上滞在したり、受け入れ先の病院に4回以上照会するようなケースは珍しくありません。厚生労働省と総務省消防庁の合同調査の結果を見てみましょう。救急受け入れ先が見つからずに現場で立ち往生した事案があちこちの地域で発生しています(=図)。
 一目瞭然、都会で多く発生しています。医療機関に4回以上照会した事案が多いのは、奈良、東京、埼玉、大阪、兵庫,千葉の順でした。また、搬送先が見つかるまでに30分以上滞在する事案が多いのは、埼玉、東京、千葉、奈良、神奈川の順でした。医療機関が充足していると思われている都会で、救急車の立ち往生が頻発しているのです。

マンパワー不足
 調査結果を受け、厚労省の担当者は「4回以上問い合わせをした事例、30分以上かかった事例が全国平均を上回った所は、一般的に言うと医師が多い病院が多い地域に多いということですから、単純に医師を増やすとか、単純に医療機関を増やすというだけでは、こうした問い合わせの事例を減らすということはなかなか難しい」と述べました。
 つまり、「病院が多いからだ」と言いたいのでしょう。
 生命にかかわる重症者の救急医療は、当直医1人だけでは対応できません。手術に必要な麻酔医のほか、患者が妊婦なら産科医、子供なら小児科医も必要です。交通事故などで頭を打っていれば脳外科医も必要です。その他、看護師ら医療スタッフもいなければなりません。
 対して、二次救急病院の状況に関する厚労省の調査によると、「当番日における医師の数が1名であるところが69%。2名以下で89%」というデータが出ています。つまり、救急患者の受け入れに必要な態勢が整っておらず、複数の医師が対応しなければならないような救急事案の場合、容易に受け入れられない状況があるのです。総務省消防庁の調査でも、医療機関が患者を受け入れなかった主な理由は「処置困難」(22・3%)がトップです。次いで、「手術中・患者対応中」(21・0%)、ベッド満床」(20・0%)、「「専門外」(11・9%)となっています。
 だったら、いくつかの病院を一つに合体して、そこに人的・物的資源を集中させれば、その病院で24時間365日受け入れることができるではないかと考える人もいます。たしかに、医療機関の効率が悪いだけなら一理あります。でも全国どこにでも、それが当てはまるでしょうか。

埼玉、千葉の危機
 先ほどの図表で示した「4回以上」と「30分以上」の両方で埼玉県と千葉県が上位に入っていること、お気づきでしょうか。
 厚労省の調査(08年末)によると、人口10万人に対する医師数が最も少ないのが埼玉県(139・9人)。次いで茨城(153・7人)、千葉(161・0人)と、いずれも全国平均(212・9人)を大きく下回っています。
 ここまで医療供給の絶対量が少ないのに、医療機関を集約化して効率的に運用するだけで解決できるのか、かなり疑問です。しかも今後、高齢化がさらに進み救急患者は増え続けることが予測されています。
 今回、さいたま市で起きた不幸な出来事は氷山の一角にすぎず、今後起こり得る深刻な事態の予兆かもしれません。
*首都圏にありながら医療過疎という埼玉・千葉の実情をお知らせしていきます。ちなみに新井は埼玉県出身、発行人の川口は千葉県出身です。

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