医師確保

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2007年05月10日 15:48

政府・与党が地方の医師不足に対応するためと称して
新しい医師の派遣システムを作るとブチ上げたようだ。


ロハス・メディカルの読者なら
この案に対して何ともいえない胡散臭さというか
違和感を感じると思う。
ちょうど今日別件で鈴木寛参院議員
現場からの医療改革推進協議会事務総長)とアポがあったので
この問題について緊急インタビューしてきた。


――政府・与党が地方の医師不足に対応するために、国立病院機構などを利用した新たな医師派遣システム構築を決めたと今日一斉に報道されました。これがワークすると思うか、お聴きしたいのですが。


 昨年来、『現場からの医療改革推進協議会』でも問題提起してきたことですが、まず政府の現状認識が正しいのか見ないといけないと思います。医師不足なのか医師の偏在なのか、ということですね。我々は医師不足だと言ってきました。人口10万人あたりの医師数が、OECD平均では300人を超えているのに、日本では210人しかいない。これが不足でなくて何なのか。しかも単に少ないだけでなく、病院勤務医が日本の場合、特に少ないのです。対して政府は、これまでずっと医師は偏在していると言っています。


 今回、ついに医師不足を認めて方針変更したのかと思ってよく見れば、地域における医師不足を認めただけで全国に関しては、いまだに認めていませんね。しかも、その前提となる医師数データを対人口比でなく対面積比で出しているため、日本で最も人口あたり医師数の少ない埼玉県などで、医師が余っていることになっています。このデータに基づいて首都圏から地方への医師派遣が行われた場合、既に小児救急が破たんしている多摩地区や埼玉、千葉などで軒並み医療崩壊が起きることになり、事態改善に役立たないばかりか、かえって事態を悪化させるのが目に見えています。


 それから、果たして政府の言っている医師の強制派遣が実効性のあるものなのか、という問題もあります。一体どういう権限に基づいて強制派遣するのでしょう。強制は憲法違反です。その他の経済的インセンティブについては各地で試行錯誤が行われてきましたけれど、うまくワークしているものが殆どないわけですから、何か他の方策を考える必要があるはずです。それをあたかも法律さえ作ればワークするかのように言うのも欺瞞です。


 選挙目当てに行動することを一概に否定はしませんが、まじめな政策議論の前提となる事実認識を歪め、実効性の担保もないまま、とりあえずアクションを起こすことによって問題が解決済みか解決に向かっていると世間の目を誤魔化し逸らす、政府・与党得意の「やったふり」「やっているふり」と言わざるを得ません。意識的に事実誤認をさせようとしているもので、極めて不誠実な態度です。


――やはりワークしないとお考えですね。では、どうすればよいと考えますか。


 今、短期的になすべきは、医師が燃え尽き医療現場から立ち去る原因となっている①過酷な勤務状況②人手不足③訴訟リスクを少しでも改善してあげることです。人手不足と過酷な勤務の改善には、各病院が採算性を理由に行ってきたリストラをやめさせ、現場の人員を増やさせること、そのためには人員を増やしても黒字でやっていけるような水準まで診療報酬を引き上げることが必要です。


 訴訟リスクを減らすには、医師・患者間の信頼関係構築を促進するため、医師・患者間や医師・患者家族間で日常的に十分なコミュニケーション時間を取れるよう、診療報酬で配慮することが必要です。また不幸な事態が起きたときにも院内メディエーションが行われること、また対話型ADRを作ることも必要だと思います。


 長期的には医師の養成数を増やすことが必要で、つまり医学部の定員増と4年制のメディカルスクール設置を認めるべきだと思います。特にメディカルスクールは大学だけでなく病院も設置主体になれるようにすれば教育研修の問題はかなりクリアされるはずで、そういったことの研究を直ちに開始すべきと思います。


――お話で出てきた対話型ADRについては、改めて伺いたいと思います。今挙げていただいたような政策を実現するために何が必要でしょう。


 現場の医師、医療者の方々が、まず政府・与党案は間違っている、実効性がないと声を挙げるべきです。それが政策を動かすのです。先ほどの話でも分かるように、医師不足の問題は結局診療報酬の問題で、それは厚労省も分かっているはずです。しかし、診療報酬の本丸の問題にしたくないから弥縫策しかしないわけで、そのように一時しのぎで世論の眼をかわそうという姿勢が根本的に間違っています。


 小泉政権が行った診療報酬引き下げが何を引き起こしたのか、政府・与党はきちんと政策の誤りを認めて、現場のリストラを促進してしまった大方針を抜本的に見直すと表明すべきです。それが、医師の立ち去りを止める最良の策です。

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コメント

>①過酷な勤務状況
②人手不足
③訴訟リスク
を少しでも改善してあげることです。

おっしゃる通りだと思います。
③訴訟リスクに関しては、法的な整備も必要だと思いますね、個人的には。
警察や検察、消防士個人が訴えられる事はないですから。
それと、同じ様な立場だと思うので。

思わず拍手したくなるほどの正論。参議院議員のこの認識が、なぜ全く立法の場で生きてこないのでしょうか。与党の大部分が医療のことなどどうでもよいと思っているからなんでしょうか。

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