誤解を与えるCM?!

投稿者: | 投稿日時: 2009年06月26日 21:47

先日、地球温暖化の影響で、蚊などに媒介される伝染病の脅威が高まりつつあるということに触れました。そんな折、ものすごく気にかかるテレビCMを目にしました。


それは、某有名「虫除けスプレー」のCM。注射器をモチーフにした“蚊”が出てきた上で、こんなナレーションが入るのです。

「蚊は別の人を刺した同じ針でアナタを刺します。いやですよね。」

1度見かけただけなので一言一句正確ではありませんが、けっこうショックで思わずメモしてしまいました。

注射器型の蚊を登場させて「別の人を刺した同じ針で」などと言えば、自然と注射針の使い回しにより肝炎やHIV感染が拡大したケースを思い起こさせます(最近も、それがもとになったB型肝炎訴訟で国に勝訴した元原告に対し、舛添厚労大臣が謝罪したことが報道されました)。予備知識のない人は、肝炎やHIVのウイルスが蚊によって媒介されかねないと勘違いしてしまうのではないでしょうか。


確かに、マラリアデング熱など、蚊が人と人との間に入り、病原体を媒介する病気もあります。しかし、それだって、「同じ針」であることが問題ではありません。例えばマラリアの原因はマラリア原虫という微生物ですが、これは蚊の体内に入ってからまずそこで増殖します。そうして十分に増え、別の人に感染させるようになるまで1週間はかかるとのこと。さらに蚊は人の血を吸いますが、人の体内に入るのは蚊の唾液(血を吸っている間に針を刺した部分の血が固まって抜けなくなるのを防ぐために、特殊な成分が入っています)であり、増えた原虫がその唾液に移動しているために感染が起きます。つまりこの蚊の体内での増殖と唾液が感染に重要な役割を持っているのであって、単に針の問題ではないというわけですね。


ということで、注射器の使いまわしの問題と、マラリア等の蚊が媒介する感染症の話は、根本的に別の話であるはずなのです。


国立国際医療センター戸山病院エイズ治療・研究開発センターのホームページにも、「HIVは蚊の体内ではやがて死滅してしまう。(中略)疫学的な証拠として、『蚊による感染が存在する』と仮定するならば、HIV感染者の年齢分布で性的活動性のない子供であっても多数の感染者や患者が出るはずであるのに、そういった事実は証明できないことなどがある」とあります。肝炎も同様のようです。


そう考えると、やはり冒頭のテレビCMは問題かな、と思います。直接に肝炎やHIVのことは触れていませんし、蚊が媒介する感染症があるのも事実ですが、誤解を与え、さらには病気や患者の方々への偏見を植え付ける恐れは十分あります。


そもそも、こうして消費者にいらぬ不安を与えて商品の売り上げを上げようというのは、分からなくはありませんが、私はあまり好きになれません。消費者のほうでも、こうしたメッセージ(そこから自然に導かれる誤解を含めて)を鵜呑みにしてはいけませんね。宣伝効果のほうはどうなのでしょうか。少なくとも良識と知識を兼ね備えた消費者は、このCMを見て「この商品を買おう」という気を喚起されることはないような気がします。(ちなみに私はこのCMを数日前に偶然見かけたのですが、その後それほどテレビを見ていなかったり、注意していなかったりで、目にしていません。いつから流されていたのでしょうか。そしてまだ流されているのでしょうか?)

<<前の記事:「明細書」の意味を知っていますか? コメント欄    「出来高払い」と「定額払い」の微妙な関係 ─ 中医協(6月24日) コメント欄:次の記事>>

コメント

まだエイズの呼び名の方が一般的だった時代に、本当にマジに「蚊に刺されたらエイズが感染する」と恐れる人がけっこういました。で、感染に必要なウイルス量から「患者がいっぺんに1万匹の蚊に刺されて、その蚊が全部こちらにきていっぺんに刺したら、感染することは可能」と計算した人がいましたっけ(私の記憶違いで10万匹だったかもしれません)。そのときの記憶が(不十分な形で)まだ残っている人がCM業界におられるのかもしれませんね。

堀米様

確かにひどいですね。

他にもサプリやデトックスなど、本当にひどい広告がありますが、「だまされる方が悪い」とも言ってられないですね。

私もこのCM、1度しか見ていませんが、日本人のケッペキなところをターゲットにして商品を売ろうとする態度…腹が立ちました。

コメントを投稿


上の画像に表示されているセキュリティコード(6桁の半角数字)を入力してください。