第1回不活化ポリオワクチン検討会 傍聴記 その4

投稿者: | 投稿日時: 2011年09月08日 00:37

 8月31日に開催された「不活化ポリオワクチンの円滑な導入に関する検討会」の傍聴記④、構成員として参加されているポリオの会のお二人のお話に入ります。

どちらも胸に迫るものがあり、正直、感情移入せずに聞きつづけることは無理でした。

ちなみに後日、そのうちのお一方、ポリオの会会長の小山万里子氏から、当日のお二方の発表記録をいただきました。ありがとうございました。以下、要所要所ご紹介したいと思います。


 まずは、小山氏のお話です。
「本日この場にいないポリオ回復者PPS患者生ワクチンによるマヒ性ポリオ発症者とその家族の思いをお伝えしたいと思います。私自身は野生株によるポリオ回復者でPPS患者です。私どもポリオの会は、かつてポリオに罹患し、今もポリオと向き合い、ポリオ後症候群(PPS)に苦しんでいる患者会です」


ポリオの会は、現在の会員数は730人で、日本にはほかに7つのポリオ患者会があるそうです。ただ、

「日本全体でのポリオ患者とポリオ回復者数ははっきりしていません」

とのこと。さらにポリオ患者についての数字が解説されました。抜粋すると、


● 平成18年現在、脊髄性小児まひによる18歳以上の身体障碍者数は4万3000人。

● 前回の平成13年調査5万5000人より人数が減少しているのは、個人情報保護法によって障害者手帳の記載から疾患名が削除されたためにあいまいになっているためではないか。

● 障害者手帳を取得していない人も含めて日本でのポリオ回復者数は10万人くらいになるのではないかと推測している。なお、18歳未満の脊髄性小児まひによる障害者手帳取得者は300人。


 この最後の300人という数字について小山氏も、「30年間野生株ポリオはありませんので、この子供たちは生ワクチン(OPV)由来のポリオです」とした上で、「年に16~17人がポリオによって障害を負って障害者手帳を取得してい」る計算としています。そして、「実際にポリオワクチンによる被害と認定されている数とは大きく乖離しているのではないでしょうか」と指摘しました。


 確かに、改めて公に発表されている患者数を確認してみると・・・

● 国立感染症研究所「ポリオワクチンに関するファクトシート 平成22 年7 月7 日版」によれば、1981 年以降ポリオと認定された患者は25 名ですが、ワクチン株由来の患者が届出対象となったのは平成18 年で、ワクチン関連麻痺(VAPP) の実数ははっきりしていないのだそうです。

● 同シートでは、平成15~20年度のポリオワクチン接種後の麻痺例を紹介していますが、毎年1~7例となっています。

● 生ワクチンの添付文書によると、VAPPの頻度は約486 万接種あたり1 人、とされています。

WHO の報告によれば、生ワクチンにより出生100 万人あたり2~4人のVAPPが発生するとされています。


 日本の近年の年間出生数は100万強で推移していることから考えてみても、これらの数字は「年に16~17人」を大きく下回っています。加えて、そもそも我が家の長男(おそらくですが)のように、麻痺が出てもいったん完全に回復しているケースでは、受診も検査もしていない場合や、麻痺の出方自体が軽くてそもそもポリオのワクチンによる麻痺だったと親も気づかずにきてしまった場合もあって、どんな調査の頭数にも入っていない違いありません。もちろん、確かな症状が目に見えているのに認定が下りないという信じがたいケースも少なくないと言います。というわけで、小山さんらの実感と公の数字とはだいぶ違って、被害はもっと広がっているとポリオの会では見ているようです。


 それにしても。


 ロハス・メディカル本誌2011年3月号特集でも触れましたが、米国のCDC(米国疾病予防管理センター)は、2000 年1月に、OPVによって「約240 万人に1人」ポリオ発症があるとして、「経口生ワクチンはもう推奨しない」という文書を公表し、米国内ではすでに完全に不活化ワクチンに切り替えられています。つまり、日本で言えば年間2~3人の赤ちゃんにポリオが発生する状況でも、米国ではOPVを「問題あり」として、公式に使用をやめるよう働きかけたのです。それが10年以上前。それに比べて日本の「のらりくらり」とした状況は何なのでしょうか?


 実は傍聴記その1で書きそびれてしまったのですが、事務局からの説明で、日本でも2001 年に不活化ワクチンの申請が行われていたことが説明されました。しかし、2005 年に申請が取り下げられています。その経緯について構成員の齋藤氏(新潟大学医学部小児科教授)より質問が出ましたが、岡部座長から「不活化ポリオ(ワクチン)の有効性を評価する際に、他のワクチンを接種した人が混じってしまって評価不能になったものです」と説明がありました。しかしそれを聞いてもちょっと納得はできませんでした。ワクチンに問題があったというならともかく、治験等のやり方に不具合があって断念して、それっきりというのはなぜだったのでしょうか?


 現在はDPTとの4種混合のほか、単抗原(ポリオのみ)の不活化ワクチンの開発も進んでいるそうですが、以前に取り下げられてからもう6年。承認して実際に使われるようになるまでに7~8年以上たってしまうことになります。米国ではその間にとっくに、OPVによる麻痺患者はゼロになったというのに、です。


 私の稚拙な文章でスペースを余分に割いてしまいました。以下、小山さんの発表を抜粋します。本当にいたたまれません。検討会提出資料が厚労省のHPにアップされていましたので、ぜひ全文をお読み下さい。


「2002年に不活化ワクチン切り替えをお願い申し上げた時と、ポリオを巡る状況はまったくかわっていません。いえ、悪化したと思えます」

「この10年の間に、日本で、ポリオという疾患はいっそう忘れられました。急性期ポリオを診察した経験のある医師は日本中に何人おいででしょうか。50代以上の患者でさえ小児まひという言葉に引きずられて、脳性まひとポリオが混同される例は依然としてあります」

「今、もし、OPV接種で、二次感染でマヒ性ポリオを発症したとしても、ポリオときちんと診断していただけるでしょうか。『生ワクチンを接種したのでこの麻痺はポリオではないか』と訴える親に『生ワクでポリオなんて聞いたことがない』とおっしゃった医師もおいでです」

「補償があるといわれても、マヒした体が治るわけではありません。その子と家族の運命を変えてしまいます。そして補償を受けるための申請ができ認定される子供は運が良い、のです。実際に、ある子どもは、『ウイルス検査ができる間に便を持参し、ほかのウイルスが検出されずポリオだけだったから、スムースにワクチン被害と認定された。この子は運が良い』と言われました。その子は、両足に装具を付け、上肢にマヒがあり、障碍は重度化して車いすになっています」

「また、一方で、高熱のあと手が、足が数日マヒして回復した、そういう例は、ほとんどがそのまま問題なしとされて放置されています。実は軽度のポリオを発症していた子供が実際にはどのくらいいるか、大変気になっています。その子たちが将来、ポリオ後症候群を発症する可能性があるからです。その時にポリオでマヒを発症していた記録はなく、おそらく診断は不能でしょう。もちろん障害年金申請の手立ても閉ざされます」

「不顕性ポリオ、不全型ポリオの区別どころか、ポリオは足だけだろう上肢マヒがあるのか、とか、尖足でないからポリオでない、などといわれるのが実状です。先天性障害とされていた子もいます。小学校入学時にポリオと分かりましたが、ワクチン被害認定申請はできませんでした」

「生ワク接種後の熱発に際し便のウイルス検査を自費でなく、公費できちんと対応してください。医師に、費用が掛かりますよ、と断られた例もあります。生ワク接種を続ける間は、熱が出たら必ず公費で便検査をという通知をきちんとすべきだと思います。今、ワクチン接種時の注意では、子供の発症はわきに置かれ、親の二次感染の注意しかされていません。手を洗うとはどの程度か、どうしたら防げるかと、親は神経質になり、思い詰めています。手を洗えば防げる病気ならワクチンも不要というのは笑い話でしょうか」


つづく

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コメント

>ワクチンに問題があったというならともかく、治験等のやり方に不具合があって断念して、それっきりというのはなぜだったのでしょうか?

調べてみましたので、コメントしました。参考程度にどうぞ。


*以下引用
(ふたばクリニック「新しいポリオワクチン(不活化)の方向性は?
」http://www.futaba-cl.com/main10-19.htm)

日本ポリオ研究所は、単独ワクチンに意欲を見せておりましたが、同ワクチンの申請書類不備を理由として承認が保留されておりました。さらに、接種回数が大幅に増加するポリオ単抗原ワクチンは、医療現場でも反発が強いものでした。単独ワクチンの追加治験実施も困難な状況と判断したために、日本ポリオ研究所は同単抗原ワクチンの承認申請を取り下げました。

*引用終了

2005 年に申請が取り下げの件ですが、
当時の新聞(2006年4月2日あたり?)では、体温の測定データが無かったとかの報道でした。これで10年遅れるとの報道もあったと記憶しています。

厚生労働省のワクチン産業ビジョン推進委員会ワーキンググループ検討とりまとめ では、
(P12 第4回WGにおける議論 DTP-IPV4種混合ワクチン)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/04/dl/s0410-2a.pdf

2001 年に製造承認申請がなされたものの、薬事法上の資料の基準 適合性の問題等があり
....
2004 年3月に抗原量の変更に関する検討が行われ、2005 年6月追加治験計画届けを提出するも、7月に治験中止届け、10 月製造承認 申請の取り下げが行われ、現在単抗原ワクチンの開発計画はない。
------

「抗原量の変更に関する検討」なら、根本的な問題に思えます。
なお、この国産ワクチンは、sIPV(弱毒Sabin株を用いて製造された不活化ポリオワクチン)で、実績のある海外製ワクチンとは異なる、全く未知の新開発のものです。

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許せないのは、これで少なくとも数年は遅れることが確実になったにもかかわらず、国産ワクチンにこだわって、輸入することを検討もしなかったことです。

さらに、この時点で委員から、切り替え時期には単体の不活化ワクチンが必要でないか、との指摘、切り替え時期にOPVとIPVの違いを国民はアクセプトできないだろうとの指摘などがすでにされています。
円滑に切り替えが出来ずに、現在接種率の低下を招いているのは、想定されていたことですので、準備を怠った厚労省の責任は重大だと思います。

kaineさま、ポリオ患者さま、

情報提供をありがとうございます。

>kaineさま
「接種回数が大幅に増加するポリオ単抗原ワクチンは、医療現場でも反発が強いものでした」とのことですが、そうなるとますます私としては、複数ワクチンの同時接種を取り入れていただければと思います。実感として、とにかく生後数ヶ月~1・2年は、接種スケジュールの調整が大変です。体調が悪ければすべてずれてしまいますし。

>ポリオ患者さま
「許せないのは、これで少なくとも数年は遅れることが確実になったにもかかわらず、国産ワクチンにこだわって、輸入することを検討もしなかったことです」、「円滑に切り替えが出来ずに、現在接種率の低下を招いているのは、想定されていたことですので、準備を怠った厚労省の責任は重大だと思います」、どちらのご意見も本当にごもっともと思います。秋の接種シーズンを目前にして、月1回の検討会で何ができるのか、事態を改善のために何かしようとどこまで本気で考えているのか、(ついでに、要するに検討会とは何なのか、)今後もしっかり検討会の動きを見ていきたいと思います。

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