なぜ日本では同時接種が進まないのか?

投稿者: | 投稿日時: 2011年10月06日 10:53

さてさて、前回はちょっとワクチンフォーラムを離れてポリオに関するニュースについて書いてみましたが、また話を戻したいと思います。今回は、同時接種の是非の話なのですが、その話を追っていくと、どういうわけか最後はまた厚労省の腰の引けたやり口が見えてきてしまうのです・・・。

まず前々回、定期接種と任意接種を取り上げましたが、その中で、「定期接種に組み込まれているワクチンでも、定められた期間を過ぎてしまえば、任意接種と同じ扱いになってしまう。だから接種スケジュール管理がなおさら大変だ」という話をしました。その際は、定期接種と任意接種の区別にギモンを感じてこう書いたのですが、よくよく考えれば、定期・任意の区別がなかったとしても、もとより打たねばならないワクチンの種類が多いために、スケジュール管理はとても大変なのです。ワクチンを接種後、別のワクチンを打つまでに、不活化ワクチンでは1週間、生ワクチンでは4週間、間を空けることが、予防接種ガイドラインにも明記されています。


でも、周りを見渡せば、日本では任意接種となっているワクチンも、海外ではほぼ全てが国のワクチンプログラムに組み込まれています。打たねばならないワクチンの数は同じかそれ以上なのです。どうやってそれだけの数をスムーズにこなしているのでしょうか。


その答えこそが同時接種というわけです。


日本では、まだまだ1回に1ワクチン(単回接種)が普通です。ただ、予防接種ガイドラインには、「あらかじめ混合されていない2種以上のワクチンについて、医師が必要と認めた場合には、同時に接種を行うことができる」とあります。そして、日本小児科学会も、今年1月、「ワクチンの同時接種は、日本の子どもたちをワクチンで予防できる病気から守るために必要な医療行為であると考える」と発表。もちろん学会推奨の予防接種スケジュール(最新版はこちら)も、同時接種を前提としているというのです。


ワクチンフォーラムでは、同時接種について、

●利点:接種率上昇、接種者や保護者の時間的負担の減少、医療従事者の仕事量の減少
●欠点:接種者の痛み、精神的苦痛

と紹介していました。普通に考えて、利点はとても魅力的ですし、それに対して欠点のほうは憂慮するにあたらないですよね。


しかし何より気になるのは、複数のワクチン(生ワクチンを含む)を同時接種しても、有効性も、有害事象や副反応の頻度も、本当に影響がないのか、ということ。


誰しも思い出されるのが、今年に入って、ヒブ、肺炎球菌を始めとするワクチンを同時接種後に死亡したケース(7例)ではないでしょうか。そうした事態を受けて厚労省では専門家の委員会(医薬品等安全対策部会の下、「安全対策調査会及び子宮頸がん等ワクチン予防接種後副反応検討会」)が設置され、一時はヒブ・肺炎球菌ワクチンの同時接種一時見合わせが決定。約1ヵ月後に「問題なし」として再開されたのも記憶に新しいですよね。


これについて齋藤氏によれば、同委員会における論点は次の4つ。

●死亡症例とワクチン同時接種の関連性 ⇒ NO
●同時接種後の死亡は、日本の子どもたちに特異的か ⇒NO
(諸外国のデータとの大きな違いはない)
●同時接種は安全か ⇒ YES
(世界標準であり、副反応の率も上がらない、基礎疾患を持つ人も問題ない)
●ロットに問題があったのか ⇒ NO
(規格外のロットは見つからず)

以上4つの問題をクリアし、委員会は「同時接種と死亡事例に因果関係は認められず、同時接種は安全性に問題なし」との結論を示したのでした。


これで万事OK、同時接種が全面解禁となって広がっていくのか、と思いきや、まだ思いもよらぬところに伏兵がいて、その芽が早々に摘まれてしまいます。専門家の委員会でも議論されていなかった事柄(下記)を、専門家への答申さえないままに、ヒブ・肺炎球菌の両ワクチンの添付文書に追記するよう、厚労省が指示を出したのです。それも、委員会が「再開決定」の結論を下した数日後、そして実際に再開されるわずか2日前のことです。


「他のワクチンを同時に同一の被害者に対して接種する場合はそれぞれ単独接種することができる旨の説明を行うこと。特に、被接種者が重篤な基礎疾患に離間している場合は、単独接種も考慮しつつ、非接種者の状態を確認して慎重に接種すること」


齋藤氏によれば、確かに両ワクチンを含むワクチンの同時接種後死亡例のうち、3例に先天的な心疾患があり、委員会でも「重篤な基礎疾患を持つ被接種者に対しては、慎重に状態を確認するよう呼び掛けるべき」という話は出ていたそうです。しかし、添付文書への「単独接種」の追記までは、まったく話題にも上っていなかったと言います。


事情に詳しい方の話では、「PMDAと厚生労働省の有無を言わせずの改定圧力があったようです」とのこと。複数の大学教授をはじめとする小児科の専門家は、同時接種は何ら問題ないと強く言ったそうです。それでも厚労省側は「原則単独接種として」という文言を入れたかったようですが、すったものんだの末に「単独接種も考慮して」という弱い表現にまででようやく落とせたのだといいます。それにしても、同時接種の相手側(DTP、MRなど)の添付文書は改定されておらず、ヒブと肺炎球菌の添付文書だけ強制的に改定させられている状況。同時接種の片方だけ一方的に改定、という奇妙なことになっているんですよね。


そして実際、この改定のために、市中の医師たちは「同時接種して何かあったときに単独接種で押し切らなかった自分たちのせいになるのでは?」と今も尻込みしてしまっているといいます。


要するにこの追記は、同時接種を積極的に促して何かあったときに国が責任を問われることを避けるために、厚労省とPMDAがかなりの圧力でねじ込んだもの、というわけです。


しかしながら、よくよく冷静になってみるとおかしな話です。混合ワクチンは、それぞれ別種のワクチンを混ぜたものですが、普通に定期接種にも組み込まれていますよね。混合ワクチンが大丈夫なのに、同時接種はそれより危険が高いというのでしょうか?素人から見ても、とても合理的な気はしません。


実際、以前住んでいた江東区のかかりつけ小児科では、おたふくかぜと水ぼうそうのワクチンを長男に同時接種してもらった記憶があります。というわけで、現在のわが子たちのかかりつけ医にも昨日、確認してみました。まずは電話、そして受付の両方で、対応した看護師さんに聞いたところ、ちょっと戸惑った様子で、というか、最初は何のことか要領もつかめない様子で、結局「うちはそれはやってないです」とバッサリ。次男が受診した際だったので(思い当たる節があってマイコプラズマかと心配していますが検査はしませんでした)、今度は小児科の先生に聞いてみると、「同時接種?うーん、やってないんだよねー。やる?やりたい?」と逆に聞かれました。そこで「ええ、是非やってください!スケジュール的にとても助かるんですよねー」と即、お願いしたところ、風邪が治ったらやりましょう、ということになりました。


同時接種する・しない、町の小さなクリニックでは、本当に1人の医師のさじ加減しだいなんですね。聞いてみるものです。でも、もしかしたら多くの人は受付で却下されているか、思いもよらないか、怖いイメージを持っているのかもしれませんね。本当に安全という結論が出ているならば、同時接種を推進することこそが、国民の健康や生命を守る国の役割のはず。なのに、かえって足を引っ張っている結果がこの状況です。だったら専門家の委員会はなんだったのか。死亡例が続いたからちょっとほとぼりが冷めるまで、くらいの、要は時間稼ぎの役回りでしかなかったのでしょうか。まったくもって失礼な話ですよね。ポリオ不活化ワクチンの検討会(第2回は今月中のはず)についても、同じようにいつもの「ガス抜き」で終わってしまうのかしらと、ついつい考えてしまう今日この頃です。

<<前の記事:久先生が臨床皮膚科医会学術大会で講演するそうです    入院、外来、在宅医療について(総論) コメント欄:次の記事>>