救済制度と予防接種制度の遅れ・・・意外な関係。

投稿者: | 投稿日時: 2011年10月11日 14:39

ワクチンフォーラム報告の続き、今回はワクチン接種後に体に異変が現れたときの「救済制度」について考えてみたいと思います。さらに調べてみると、救済制度のあり方と、日本の予防接種制度の遅れにはつながりがありそうだ、ということも見えてきました。

まず一般論として、ワクチンを接種した後に、病的な症状が出たり、障害が残ったり、命を落としたりなど、何らかの被害が出てしまった場合に、国が被害者に対し金銭をもって責任を取る方法としては、次の2つが想定できます。

●補償:
ワクチンと関連のある被害に対しての支払い
●救済:
たとえ実際にはワクチンと関連がなくとも、関連が否定できない被害に対しての支払い


日本では、「救済」が基本となっています。


まず、定期接種に対しては、「予防接種健康被害救済制度」が予防接種法で規定されています。接種した医師や医療機関は、明らかなミス(期限切れのワクチンを接種してしまった、アレルギーの問診が明らかに不十分だった等)がなければ責任を問われることはありません。といっても、費用負担が「国が半分、残りの半分を都道府県と市町村がさらに半分ずつ」と複雑なため、制度を利用しやすいかといえば、そうでもない様子。それでも最近では昔に比べ、国も方向転換して、因果関係にこだわり続けるより救済の方向に向いているといいます。


昔はこの救済の基準が非常に厳しくて救済が認められなかった結果、多くの予防接種裁判が闘われてきました。裁判を起こす時は国を訴える事になります。この裁判こそが、長きにわたって余計に予防接種は危険なものという印象を与え、ひいては予防接種制度の遅れる原因にもなってきたようです。


私も「どうして日本の予防接種制度はこうも遅れているんだろう?」と、常日頃思ってきましたが、「なるほど!」と思う記述を見つけました。かなり「なるほど」なので、長くなりますがその部分をそっくり引用します。

●遅れた日本の予防接種制度の現状とその対策 
VPD(ワクチンで防げる病気)を知って子どもを守ろうの会代表:薗部友良
(2009年10月)

(以下、引用)


【予防接種制度の遅れの原因】

財務省が予算をつけないなど多くの原因がありますが、根本は司法の問題と小生は考えております。ワクチンの副作用問題(健康被害)の裁判で行われたことの一般論を述べます。

まず医学的にワクチンとの因果関係が証明された健康被害(副作用)に関しては補償制度で補償されますので、そこで多くは解決します。ここで覚えてほしい点は、健康被害の認定委員会は、科学的にはっきりした証拠が無くても、症状が重いと認めてきたのです。すなわち、認定されたものが総て科学的に正しいわけではありません。また予防接種関係の科学が進んでいなかった時代の認定方法が継承されてきているのもの事実です。

しかし裁判例においては、裁判官は目の前にいるかわいそうなお子さんを守ること(弱者救済)を第一に考えます。これ自身は間違っておりません。しかし日本司法制度では、救済(補償)する際に、誰かの過失を必要とします。ここが問題なのです。いわゆる紛れ込み事故(ニセの副作用)であると思われる例でも救済しますので、当然誰かの過失が必要です。(当時の医学常識では「ワクチンとの因果関係が否定できない」とされたのですが、現在の進んだ医学で見ると、何でも絶対違うと言うことはできませんが、上記のように紛れ込み事故の可能性が極めて高いのです。)するとワクチン会社、厚労省関係者,あるいは接種医の過失を認めることになるのです。すなわちえん罪を作り出さざるを得ないのです。


【負の連鎖(悪循環)】

これが不幸を呼ぶのです。真の原因は何であれ、救済された不幸なお子様のご家族は、ワクチンを恨みます。またマスコミはワクチンの副作用問題を大きく報道します。またえん罪を受けた医師は自分の不幸をのろい、予防接種を嫌っていきます。当然厚労省は積極的に動けません。それどころか、すべてのワクチンを止めたいとも見えるくらいです。たとえばけいれんのあるお子さんなど、紛れ込み事故であるけいれんを接種後に起こされてはいやですから、接種注意者にします。このような方こそ接種が必要と世界では考えますが、日本では全く逆です。最終的にVPDの被害が拡がり、不幸が続くのです。

このようなことから、20年前までは予防接種先進国日本が、先進国のみならず、中進国上位の国の間でも最悪の予防接種制度になってしまったのです。実際、世界で普通に使用されているワクチンを含めてワクチンの種類は増えず、定期接種の種類も実質的に減らされます。WHOで最重要ワクチンと認められたワクチンも導入も遅いし、定期接種になりません。総ての新規ワクチン(国産および輸入ワクチン)に認可にも大変時間とエネルギーがかかります。

また受けやすい制度作りも全くできておりません。任意接種のワクチンは有料なので接種率は上がりません。医師の裁量を認めず、少しでも下位の法律とずれた場合は定期接種と認めません。予防接種を地方に丸投げしたことで、ある町の無料券は隣町では使えません。そのほか多くの問題点があります。

(引用終わり)


なお薗部氏は、予防接種問題の抱える上記のような「負の連鎖」を解決する策として、「免責制度」を主張しています。これについてはまた機会があれば別のところで検討してみたいと思います。


さて一方、任意接種にも一応は救済の仕組みがあるのですが、予防接種法ではなくPMDA法で規定されているようです。これは製薬企業などからの拠出金で賄われていて、「医薬品の副作用としての支払い」という意味合いになるそうです。救済額は定期接種ワクチンと比べて低くなっています。本来なら定期接種と同じように扱われてもおかしくないワクチンを接種して異常が生じたというのに、それが任意接種に含まれるからといって救済の程度が低いというのは、やはり納得がいかないですよね。子供のことを思って積極的に費用を捻出してまでワクチンを接種させたのに、なんだか間違ったことをしたかのよう。親にしてみれば踏んだり蹴ったりです。放っておいたほうがましだった、と考えたくもなります。


次回はこのような日本の「救済制度」に対し、米国ではどうなっているのか、齋藤氏の報告を振り返ってみます。

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