現場からの医療改革推進協議会 ポリオワクチン問題 (その2)

投稿者: | 投稿日時: 2011年11月11日 15:12

間があいてしまいましたが、11月6日の「現場からの医療改革推進協議会 第6回シンポジウム」で行われたポリオワクチンに関する議論(地域医療セッション)のほうも、少しずつ地道に更新していきたいと思います。

今回は、今年6月から神奈川県参与を務め、黒岩知事・黒岩行政に対する医療関係のアドバイザーとして今回の不活化ポリオワクチン(IPV)独自導入にも尽力してきた内田健夫氏と、飛び入りで講演に参加された2児のお母さんでもあるハーバード公衆衛生大学院リサーチ・フェローの細田満和子氏、お二人の講演をダイジェストにまとめます。


内田氏は昨年3月まで日本医師会の役員(ワクチンは別担当)を務め、ご本人いわく「日本医師会の弱点も、ウラもオモテも熟知している。」とのこと。また「神奈川県であれば、構成メンバーの私生活まで知っている」とか。←会場のあちこちから笑い。要するに現場を知っている、医師会をよく分かっている、ということから、参与に任命されたと自身では理解しているようです。


黒岩知事がワクチンへの思いを常に強く持ってきたことにも改めて触れ、「先進国ではIPVが当たり前」であって、生ワクチンを使い続けることは「不合理」としました。さらにはこうした国のワクチン政策について、「ウラに何かあるのかとかんぐりたくなる」と酷評。確かに一医師としては100万人に2人程度の副作用というのはワクチンとしてごく通常のレベルだが、母親の立場から見れば、むしろ「なぜ安全なものがあるのに使わないのか」という疑問は当然との立場を示しました。


現在進めている神奈川県独自のIPV接種に向けた課題としては、医師の確保、ワクチンの確保、そして副反応への対応が挙げられました。ただそれでも、神奈川県の先進的取り組み、何より「知事の頑張りに感銘を受けた」といいます。


自身が住んでいる川崎は大きな市で、北端から南端まで30kmほどもあり、南北で人々の生活スタイルもまったく違うとのこと。内田氏によれば、北部では生ワクチンの接種率が、実感として50%以下ではないか、しかし、南部では接種率はそれほど変わらないようだ、としています。北部に関しては生ワクチンからの2次感染も心配ですし、海外から入ってくることも考えられますから、いずれにしても生ワクチンを打つより免疫がない状態のほうが危険、と懸念を示しました。「この状況を思うと、IPVを認めない厚労省は許しがたい」とも。


ということで、IPV導入に向けて、「神奈川発の医療改革を行おう」と、医師会、薬剤師会、歯科医師会、神奈川の4大学、介護関係の方々、東洋医学の先生方お二人ほど、といったメンバーで、医療提供体制、医師確保について調整を進めているそうです。当初、内田氏は県参与である自身の役割として、「医師会等の医療関係団体との調整役という意味合いが強いのかな」と考えていたといいますが、今では「黒岩知事の思いを前面に出していく役割と思っています」とのことでした。


さて、続けて細田氏の講演です。細田氏の専門は社会学で、13歳と7歳の女の子たちのお母さん。7年前にご主人のお仕事で渡米されたそうです。アメリカに渡ってまずやらねばならなかったことが、娘さんたちの予防接種。A型肝炎やB肝炎など、日本では定期接種に組み込まれていなくて打っていなかったワクチンを、全て打ったそうです(そうでないと小学校にもはいれないんですよね、たしか)。


細田氏がポリオワクチンの問題について関心を持ったのは最近のこと。ポリオの会が10年以上も前からIPVへの切り替えを要望せいていること、個人輸入によるIPV接種が増えていること、神奈川県VS厚労省(小宮山大臣)の報道などを知るにつれ、「どうなっているの??」という疑問が膨れ上がっていったそうです。


そこで細田氏は子を持つお母さんたちを対象に、アンケート調査を緊急に実施しました。ちなみに、ハーバード大学にIRB申請したところ、通常約2週間かかるものが、3日で承認されたといいます(日本のお役所等には見られない柔軟さですね)。


さて、その調査の中間報告(n=54)ですが、ポリオワクチンの安全性についての質問に対しては、IPVとOPV、いずれも「どちらともいえない」という回答が半数近くを占めました。違っていたのは、IPVには「とても安全」という回答があったのに対し、OPVではゼロだったということ、また、「やや危険」と「とても危険」という回答の合計がIPVではゼロだったのに、OPVでは10%近くいたという点です。また、ワクチンを受けさせたいかという質問については、IPVもOPVも「わからない」という回答が最も多かったのですが、それでも結局は、「わからない」ままにワクチンは受けさせていることが分かりました。また一部、「このアンケートを受けたことで、今までは何も気にしていなかったワクチンに対して不安を覚えた」という回答もあったそうです。これまでは根拠もなく、なんとなく安全と信じていた、思い込んでいたということでしょうか。


この後、細田氏は全世界でのポリオ撲滅への取り組みについて紹介。ビルゲーツ財団やロータリークラブ、日本政府のODAによるパキスタンでの活動に触れました。それに対して日本国内のワクチン行政については、「本当に大丈夫?」と思わざるを得ない、と。世界で主流のIPVでなくまだOPV、接種回数についても疑問が残るとのこと。またアンケートでは、お母さん自身がポリオの予防接種を過去に受けたかどうか「わからない」と答えた人が30%に上り、さらに配偶者(お父さん)が受けたかどうかは50%以上の人が「わからない」と答えたといいます。あるいは母親や父親の世代にも予防接種(追加接種)が必要な状況なのかもしれませんが、そういったことはまったく検討されていません。


以上が細田氏の講演ですが、これについて司会の久住氏からもコメントがありました。ワクチンの安全性あるいは危険性についてわかっていないお母さんが多い、という点ですが、「実際、どこまでわかっている必要があるのか」という考え方です。例えばオートマ自動車はとても便利ですが、システムをしっかり理解して乗っている人がどれくらいいるでしょうか。そう考えると、ワクチンも「よく分からないけれど、とりあえず受けさせていたら病気にならずに済んでよかった」というのが、システムとしてはよいのかもしれないですね、ということでした。


たしかに、システムとして考えればその通りですよね。いちいち安全かどうか疑ってかからないといけないシステムなんて、そもそも困ります。でも、その困った状況が現に起きているのがこのポリオワクチン問題。つまりはこの問題を早急に解決しなければ、ワクチン全体への信頼が揺らぐことになりかねない。ポリオワクチンの問題は、それだけの意味があるととってもよいのではないでしょうか。

<<前の記事:昨日、予防接種部会で耳を疑う発言?    現場からの医療改革推進協議会第6回シンポ その3:次の記事>>

コメント

ワクチンについての教育、ま、医療全般もそうかもしれませんが、
すべての人が同じだけの知識を得る、ことは難しいかもしれない、

でも、
今みたいに必要な情報が、ほとんど行政から提供されていないと(そもそも提供する気がないのだろうが)、
学びたい方々は本当に苦労して自分で情報をかき集めなければならなくなる。
その過程で、誤った情報や誤解も起こりやすくなる。

その意味で、しっかりした正確な情報を提供するシステムは必要なんだと思います。
本来、医療者と国民が協力して情報を整理し、行政が無条件でそれを公開してゆく、なんでしょうが。

コメントを投稿


上の画像に表示されているセキュリティコード(6桁の半角数字)を入力してください。