現場からの医療改革推進協議会第6回シンポ その4

投稿者: | 投稿日時: 2011年11月15日 04:03

現場からの医療改革推進協議会第6回シンポジウム、ポリオワクチンについてのセッションを振り返ってきましたが、今回で最終回です。


セッション終盤、協議会の発起人である鈴木寛参議院議員や、PMDA審査官の谷本哲也氏、司会者でもあり不活化ワクチンの接種を行っているナビタスクリニック院長でもある久住英二氏、そして会場に駆けつけた三原じゅん子参議院議員から発表・発言がありました。

まずは鈴木寛議員が関係者席からコメントしました。鈴木寛議員は、黒岩祐次氏と並んでこの「現場からの医療改革推進協議会」の発起人に名を連ねてもいます。そんな鈴木議員だからこその気がかりから話が始まりました。


●この現場からの医療改革推進協議会シンポジウムも今回で6回目、6年目になる。私自身が医療、医療自体、そしてその背景についてすごく勉強させていただいているが、気がかりは、国会議員の参加率の低さ。最初から同じ顔ぶれで、増えていない。

●しかし、医療こそ、本来、政治が関わらねばならない部分。というのは、価値観の問題が大きく関わってくるため。しかし国会議員の参加が少ないのは理由(TPPと対照的。)はやはり、医療政策への参入障壁の高さ。医療は非常に難しい。問題への継続的取り組みには多大なエネルギーとサポートが必要。医療政策にずっとかかわり続ける議員はよっぽどタフなんだろう。医療“費”行政への関心は高いが・・・。

●医療行政は、常にトレードオフ。正しい唯一の解というものがない。あちらを立てればこちらが絶たず、決断しては1年後に修正して、の繰り返しと積み重ね。これに真っ向向き合って、いろいろな人と熟議し、「人間とは」「社会とは」「政治家の仕事とは」「業界の仕事とは」「学者の仕事とは」「メディアの仕事とは」という議論をしていかねばならない。ある種の決断、そのリスクとその覚悟がいる。

●歴代大臣は、医療のことなど分からない。それをいちいち批判していてもしょうがない。黒岩氏のように何十年も医療をテーマとして、自分の信頼できる人材と人脈、人的ネットワーク、コミュニティーをもっている政治家はほとんどいない。自分も、この場にはお互いのモチベーションを確認しあった信頼できる人々、その動機の純粋さを分かっている人々がいるから、信頼して話をできるが、政治家にはいろいろな人が専門家と称していろいろな話を持ってくる。「私はこの問題を何十年もやってきました」という人が、大量に相談に押し寄せる。その一人ひとりの動機を見極めるのは至難の技。

●さらに、専門家といわれる人々、肩書きだけ見ればすごい人たち、同じ大学の教授とされている人々が、お互いに自分が正しいと全く違うことを主張しあって譲らない。これを見て、政治家はもうあたふたするしかない。とくに医療というもの、自然科学が関わる分野は、一般の代表である政治家とアカデミックの間で特にリテラシーギャップが大きく、真にアカデミックな友人を持っている一部の政治家以外にはモノも言えない。

●ポリオ以外にも、こうした問題はたくさんある。最後はみんなで決めるが、ある種の決断とリスクはみんなで負うのだという理解と協力を国民に求めていかねばならない。勧善懲悪、マルバツでない答えに耐えねばならない。


さらに、MPDAのワクチン審査官である谷本氏もコメントします。あくまで“個人的見解”ということで・・・。

●日本はいまだ村社会。原発作業員の幹細胞移植に関しても、ポリオと同じことが起きている。われわれ臨床医からすれば妥当なことでも、原子力安全委や政府では同じ見解ではない。原子力村と同じことが、ワクチン村でも起きている(「ワクチン村からは非常に“昭和の香り”がする」と表現。古い日本のシステムで、なんとなく全員一致が基本。アメリカの承認は多数決で、2人反対がいても承認になるし、2人賛成でも不承認になる。)。

●政府も結局は「日本人での安全性と有効性が証明されねば無理」という見解の縛りから抜け出すことは困難だろう。

●村社会内部の人間だけでなく、いろいろな立場の人間が参加することで、解決策を見出していければいいのではないか。


これについて、鈴木寛議員が付け加えます。

●医療政策だけでなく、この国は、「作為の責任と不作為の責任の順序」を入れ替えなければだめ。第二次世界大戦の当時と変わっていない。サッカーでも、今のままでは日本のポイントゲッターはシュートを打たない。それは、「やったことに伴う最悪を最小化しなさい」という行動原理で行動しているから。そう教育されている最たるものがお役所。「やらなかったときの最悪を最小化する」というふうに変えていかないといけない。

●まずやらないといけないことは、自然科学者だけで話してはいけない。社会科学者を入れなければダメ。違いと多様性あるコミュニティの中でどう折り合いをつけていくかを考える。自然科学と人文科学と社会科学がタッグを組まないといけない。同じような自然科学の背景を持った人たちが、行政マンになり、病院長になり、製薬メーカーに行き、という状況だから、議論がある一つのバイアスを持った状態になっている。


こうして話が難しくカタくなったところで(もちろん本質的な話で非常に面白かったですが)、今度は久住氏の現場からの報告です。まず、会場に対しての質問。「2歳までに子供が打つワクチンの本数は?」これは任意接種を含めたもの。答えは約28回。ものすごい数ですよね。私はもちろん(?)正解しました。実際には下の子のほうは油断していて、任意接種のワクチンに関しては、いろいろなことに追われて日々過ごしているうちに、のんきにもかなり出遅れてしまったのですが・・・。確かにポリオの不活化ワクチンも3回+1回接種ですし、1回ですまないものが多いので、これくらいの数にはなってしまいますね。

●不活化ワクチンの接種後は1週間、生ワクチンの後は4週間、間を空けて打つことになっている。医師が必要と認めた場合は同時接種も可能。だとしても、1ヶ月に1回は打たねばならない。とくに0歳児の間に集中。世の中のお母さんはエラい目にあっている。

●同時接種をフル活用すれば、2年間に10回の接種ですむ。小児科医は冬に感染症患者で忙しく、夏はヒマなので、夏に接種を集めれば、医師の負担も軽くなる。

●ポリオ不活化ワクチンは、RHC1社の数字でも2010年終わり頃から輸入数が急増し、もう1社のmonzen社は月に1万本ほど輸入しているので、合計でこれまでに国内に10万本は入ってきている。

●自身のナビタスクリニックでも、2010年12月15日のポリオの会の署名提出を気に、不活化ワクチン接種数が増加。

●「個人輸入の不活化ワクチン接種によって“紛れ込み”事故が増え、本格的な導入が20年遅れては困る」という小児科医もいるが(ちなみに、テレビでは言うことが違う)、それは接種側がきちんと説明すべき。

●各医療機関で、個人輸入した不活化ワクチン接種の実施方法はいろいろ。たからぎクリニックなどは、メールや電話ではなくあえて往復はがき制にして、お母さんにペンを執りながら熟慮してもらうよう促している。説明会を開催し、その後そのまま希望者に接種しているところもある。ナビタスクリニックでは、電話申し込み制だが、受付時間に制限を設けることで交通整理している。

●輸入ワクチンの納期は1ヶ月以上で、在庫管理が大変。1か月分の在庫を抱えるため、ナビタスクリニックでは1台だった冷蔵庫を3台まで買い足した。

●未承認ワクチンであり補償制度がないが、ただし万が一の時には通常の医療行為として処理すれば訴訟によって医賠責が使えるので、そのような形で被害者には補償が出るように配慮したい。


次に、当日、途中で駆けつけた三原じゅん子議員が指名されて急遽壇上へ。三原議員は子宮頸がんワクチンの助成に尽力した議員です。行政と政治家の違い、そして政府=与党か、野党かで、全く役割が違うことを痛感しているとのことでした。自身は野党の一厚生労働委員会のメンバー、自分に何ができるかを考えさせられる、と。三原議員は自分を「パシリ」と表現します。ポリオワクチンの問題にしても、その他、医療などの問題にしても、党内に伝える人がいない現状を捉え、鈴木議員の言葉どおり「エネルギーを持った人がやり続ける」という決意を新たにしたとのことでした。


最後にまた黒岩知事が登場。先日ブログで触れたように、神奈川県の中沢保健医療部長を紹介し、不活化ポリオワクチンの独自導入への意気込みと進捗状況を報告したのでした。


以上、今回のシンポジウム、ポリオワクチンの問題を取り上げた地域医療セッションを振り返りました。臨床家、政治家、マスコミ、社会学研究者、患者、お母さん・・・様々なステークホルダーが参加し、それぞれの立場からの意見や報告を聞くにつけ、このポリオワクチン問題は、もはやポリオだけの問題にとどまらず、日本のワクチン行政そのものの問題点に目を向けるきっかけとなっている、あるいはきっかけに過ぎないのだなあと実感しています。不活化ポリオワクチンは、遅いとはいえ、1年半後には実現されることでしょう。しかし、これで万歳となってはだめなんですね。根本的に変わらないといけないことがある。それは鈴木議員が指摘していたように、たぶん、日本人のものの考え方から見直さないと本質的に改善することができないのかもしれません。難しいことにも見えますが・・・。


そして、ポリオについて言えば、やはりポリオの会の小山会長が訴えていたように、気がかりは将来のこと。現状でも少ない患者が、さらに減っていくのはおそらく確実ですから(野生株ウイルスは確認されなくなり、生ワクからん患者もいなくなるので)、今の子供の世代の患者さんが、もしかしたら、日本では最後の患者さんたちになるかもしれません。しかもポストポリオ症候群は40~50年後に現れてきます。彼らの存在が忘れられ、補償や医療が忘れられることがないためには、今どうするべきか。今、考えておかねばいけないことです。私も文字通り他人事ではないので、不活化ワクチン早期導入を待ち望みつつ、そうした議論が置き去りにされそうな現状に対して、心のどこかで焦っているのが正直なところです。

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