英国ではワクチン報道を人々が信用していない、という話。

投稿者: 堀米香奈子 | 投稿日時: 2011年11月20日 02:13

ポリオワクチン問題に関する報道がこのごろ相次いでいますが、去る11月9日に開かれた欧州製薬団体連合会の主催するワクチン・メディアセミナー「欧州におけるワクチン政策の現状とリスクコミュニケーション~英国での成功事例を中心に~」に出かけてきた報告がまだでしたので、今回と次回、2回に分けて書いてみたいと思います。


演者はイギリス保健省デービッド・ソールズベリー予防接種部長。英国でのワクチン・プログラムと新規ワクチンの導入時における安全認識の問題、さらに有害事象が起きたときのマスコミへの対応策などは興味深いものがありました。


まず、ソールズベリー氏は、英国でのC型髄膜炎菌症ワクチンの導入事例を紹介。患者の多くが未成年であるため、1999年に未成年者を対象としてワクチン接種を開始したところ、未成年はもちろんのこと接種対象外の成人の感染も減少したそうです。このことから、ワクチン接種による国民全体への効果、つまり公衆衛生上の効果が示されました。


英国では、接種するのはたいていが一般開業医(学校での集団接種は看護師チーム)、つまりかかりつけ医の役割が大きいのが特徴です。予防接種記録は3ヶ月以下の頻度で更新され、一般開業医も閲覧が可能となっています。また、全てのワクチンは保健省が製薬メーカーから購入し、無料で接種をかかりつけ医らに提供、もちろん接種を受ける側も費用は無料です。新規ワクチンの導入時には、国レベルでかかりつけ医のトレ-ニングを行い、国民に同じ内容が提供されるようにシステム化されています。


また、JCVI(Joint Committee on Vaccine and Immunization)と呼ばれる委員会があり、アメリカのACIPと同じように様々な分野の専門家のほかにワクチンを受ける側の代表者も参加してワクチンの効果や安全性、費用対効果等について議論し、ワクチンの評価や接種スケジュールの変更、適応症の変更などについて取り決めています。ワクチン製造企業は資料のみ提出し、メンバーは専門家も非専門家も、JCVIとの利益相反関係にないことを表明しなければなりません。ACIPとの違いは、国民への情報提供についても大きな役割を担っていること(ACIPは情報提供については小児科医らの役割らしいです)。また、聞いた限りでは、ワクチンの接種はあくまで「権利」のようで、「義務」という表現は聞かれませんでした。しかし、JCVIやかかりつけ医による働きかけや啓蒙もあり、接種率は多くのワクチンで90%超を保っているようです。


乳幼児を持つ親への聞き取り調査も実施しており、ワクチンに関する実際の情報源は、国が作っている育児冊子や予防接種のお知らせのはがき、インターネット、保健省のウェブサイトという意見が多く聞かれ(複数回答。「複数の情報源」という回答が8割)、民間の書籍、雑誌、新聞、TVとの回答はいずれも10%以下にとどまりました。特にインターネットは普及率が約5割だった10年前と比べ、約9割に達しており、それにともない利用が増えていることがわかりました。


しかし、予防接種に関するアドバイスの情報源としてもっとも信頼できるのは?という質問については、かかりつけ医を始めとする医療従事者との回答が92%、次いで英国保健省が86%、薬剤師が66%という順位でした。一方、家族や友人は49%、マスコミに至っては21%しか信用していないことも分かりました。この結果を受けて、JCVIではかかりつけ医にワクチンに関する情報提供について積極的に保護者との間に入ってもらうように働きかけ、また、英国保健省の本部そのものはワクチン行政について実際には何もしていないけれども、保護者に信用されているという理由から、発行する資料にはみな「英国保健省(NHS)」と印字するようにしたそうです。ちなみに、「政府」の信用度は58%と微妙な回答でした。


また、欲している情報の内容についての質問については、最も多かった答えが、「副反応」で、4割以上の親が回答。それに対し、「安全性のエビデンス」との回答は10%未満にとどまりました。専門家にしてみれば、この2つの質問はほとんど同じ意味を持つはずですが、聞き方が違うだけで、一般の人々の反応はこうも違うのです。そこで保健省では「副反応」という言葉を前面に出したリーフレットを作成しました。


このようにリサーチで人々が何を知りたがっているかを的確に把握して、政策や施策に反映させているのです。ただ、マスコミ、とくにテレビの影響の低さということに関しては、後からコメンテーターの岡部信彦氏(国立感染研、厚労省の不活化ポリオワクチン検討会の座長でもありますよね)が、「日本に関してはちょっと状況が違うかもしれませんが」と補足していました。確かに日本ではもう少し、新聞やテレビの影響は大きそうに思えますよね。


さてもう一つ、興味深い調査項目が、ワクチンの安全性の認識に対するものでした。予防接種を「時期がきたらそのまま受ける」のか「メリット・デメリットを判断して受ける」のか、という質問を9年間連続してたずねたところ、前者の割合が徐々に上昇してきたというのです。特に、MMRワクチンについては注目です。


MMRワクチンの問題については、以前、このブログでも取り上げました。英国ではMMRワクチンが1988年に導入されましたが、やはりおたふくかぜワクチンの占部株が問題となり、調査の結果、1992年にJeryl-Lynn株に置き換えられることとなりました。この置き換えの発表によって、それまで90%をやや下回っていたMMRワクチンの接種率が上昇、その後の数年間、90%以上を維持しました。しかしそれから自閉症増加の原因となっているのではないかとの噂が出てきたために、接種率は2002年頃までに12%以上減少して70%台となり、占部株問題よりも深刻な状況となりました。その後、キャンペーンを打って呼びかけるなどしたためになんとか80%に回復しましたが、また2006年頃から下降線をたどります。ところが2009年、新型インフルエンザが世界的に流行し、それに対する新しいワクチンが導入され始めると、不思議なことにMMRワクチンの接種率は自然に回復し始めたというのです。


調査結果に戻りますと、各ワクチンの安全認識については、のきなみ「完全に安全」「リスクは少し」との答えが80%程度に上りました(MMRワクチンも81%)。しかし唯一、豚インフルエンザ(新型インフルエンザ)ワクチンだけは68%にとどまったのです。


要するに、人々は新しいワクチンが登場すると、それに対して警戒あるいは不安視する一方、それまで最も不安視していたワクチンについては警戒を解いてしまうようなのです。不安を抱く対象はいつも1ワクチンだけで、あとは関心が薄れてしまう、ということでしょうか。


さて、前半はここまで。次回は後半、有害事象への対処とマスコミ対応について報告します。。

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コメント

報道を信用しないとか、逆の過剰反応や風評や噂の問題は、複雑ですね。日本の報道は概ね信頼されていますが、原発事故で、政府が誤った情報操作をしたので、日本でも報道の信頼性にかげりがあるかもしれません。それより根拠の無い似非科学的な話が、まことしやかにバラエティー番組等でゲスト達から流されることもあり、影響を与える可能性も考えられます。間違った噂はマスメディアで積極的に打ち消さないと、広がり続けます。(例血液型は、再三の注意にもかかわらず、たまにTVで話題に上る。)

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