そのサラダ、どんなドレッシングを使っていますか?

投稿者: | 投稿日時: 2012年09月20日 00:00

今回の「大西睦子の健康論文ピックアップ」は、いつもにも増して身近な話題です。健康志向が高まって、野菜サラダは毎日の食卓に欠かせないものになってきていますが、サラダにはドレッシングがつきものですよね。このドレッシング、どうやら味をよくするためだけのものではないらしいのです。ドレッシングを野菜にかけることで、栄養を効率よく摂り込むことができるのだとか。「おいしい」と感じることは、体がほしがっている、ということ(現代ではおいしいからといって食べ過ぎて健康を害することもありますけれどね)。ドレッシングも人々が生活の中で自然に得てきた知恵なのかもしれません。


ただ、健康志向の人にはここでちょっと気になる話が・・・。どうやらドレッシングも成分によって健康効果に違いが出てくるらしいのです。健康志向の人ほど陥りやすい、ちょっと意外な“落とし穴”かもしれません。さっそく大西医師の報告をどうぞ。


【 そのサラダ、どんなドレッシングを使っていますか? 】


皆さん、サラダを食べる時、ノンオイルドレッシング、低脂肪ドレッシング、それとも普通のドレッシングのどれを使いますか? ダイエット中の方は、「やっぱりノンオイルが一番!」って思っていらっしゃいませんか? 実は、ノンオイルドレッシングを使った場合、サラダのカロリーは低くなりますが、大切な野菜の栄養素を得られずに捨ててしまうのと同じになるのです。もし、野菜の栄養素を摂取したいなら、野菜の種類だけではなく、ドレッシングの選び方も大切です。もっと言えば、使われている油の種類が重要です。今回は、パデュー大学の研究者たちの研究報告から、栄養面から考えるドレッシングの上手な選び方を伝授いたします。


Goltz, S. R., Campbell, W. W., Chitchumroonchokchai, C., Failla, M. L. and Ferruzzi, M. G. (2012), Meal triacylglycerol profile modulates postprandial absorption of carotenoids in humans. Mol. Nutr. Food Res., 56: 866–877. doi: 10.1002/mnfr.201100687


まず始めに、「カロテノイド」ってご存知ですか? 「β(ベータ)-カロチン」は聞き覚えのある方も多いと思います。β-カロチンはカロテノイドのひとつ。カロテノイドは、天然に存在する、黄色、赤色あるいはオレンジの色素成分です。構成する要素が、炭素と水素のみで酸素を含まないものはカロテン類(α-カロチン、β-カロチン、γ-カロチン、リコピンなどがあります)※1、酸素を含むものはキサントフィル類(ルテインやゼアキサンチン、カンタキサンチンなどがあります)※2と分類されますが、どちらも抗酸化作用※3が強く、心血管障害、老化、がん、加齢黄斑変性症※4を含むいくつかの慢性疾患に対しても予防的効果があると考えられています。ちなみにβ-カロチンは、動物や人間の体内でビタミンAに変わります。


こうしたカロテノイドは、緑黄色野菜、マンゴーや柿などの果物に多く含まれています。厚生労働省の「健康日本21」※5によれば、日本では、野菜1日350g以上、緑黄色野菜にすると120g以上の摂取が推奨されています。しかし、日本人の1日平均野菜摂取量は約290g、特に20〜40歳の年齢層では約250gと、野菜の摂取が不足しています。


「私はかなり気をつけて毎日たっぷり野菜を食べているから大丈夫」、という方も、ちょっと待ってください。せっかく野菜を毎日350g食べていても、カロテノイドが体内に吸収されていない可能性があります。カロテノイドは、水に溶けにくく油に溶ける性質を持っているため、脂肪とともに摂取すると効率よく体内に吸収されます。逆に言えば、そうでないとカロテノイドがきちんと摂れないままに排泄されてしまい、「食べているのに不足している」という事態になるのです。


とはいえ、どれだけの油類があればカロテノイドをきちんと摂取できるのでしょうか。具体的な油の量や種類とカロテノイドの吸収率との関係を調べた研究は、これまで限られていました。以下のような報告があります。


●Roodenburg博士らは、「ヒトの場合、サプリメントからのα・β-カロチン吸収に十分といえる脂肪摂取量は、3-5g」と実証しました。

●逆に、Brown博士らは、「低脂肪(6g)や無脂肪のサラダドレッシングに比べ、全脂肪ドレッシング(28g)と一緒にサラダを食べると、カロチンやリコピンの生物学的利用能が最も高い」と報告しています。

●脂質の種類に関しては、Hu博士らは、「ヒトにおいて、牛脂の飽和脂肪酸※6は、ひまわり油の多価不飽和脂肪酸※7と比較して、β-カロチンの吸収を強化した」と明らかにしました。


このように、油の量や種類とカロテノイドの吸収率の関係については、さまざまな意見があります。そこで、パデュー大学の研究者たちは、「どんな種類の油のドレッシングをどのくらいの量使うと、効率よくカロテノイドを体内に吸収できるか」を検証しました。


方法は、以下のとおりです。

●対象は、平均年齢27歳(18—46歳の範囲)、平均BMI 22.8kg/m2(20-26 kg/m2の範囲)の29人(男性14人、女性15人)の健常者。彼らにサラダが、ラテン方格(3×3)※8を使って無作為に割り当てられます。

●ドレッシングは、キャノーラ油※9、大豆油※10、バター※11を使った3種類。同じ栄養成分に揃えたサラダに、それぞれ3g、8g、20gの3通りの量をかけたものを用意します。すべての食品は厳密に計量し、パデュー大学栄養科の研究スタッフにより調製されています。試験期間中にテストサラダの総カロテノイド含有量は、一人前平均25 mg(16〜32mgの範囲)でした。

●サラダを食べた直後から10時間後まで、血液を1時間おきに集めて、カロテノイド含量などを分析しました。なお、体内のカロテノイドの影響を最小限に抑えるために、試験開始日の7日前から、被験者は低カロテノイド食にします。


試験の結果、キャノーラ油、大豆油とバターの3種類のすべてのドレッシングで、油が20gのドレッシングは3gや8gのものに比べて、α-カロチン以外、すべてのカロテノイド類の吸収を促進しました。従って、すべての種類の油において、脂質の量が多いとカロテノイドは吸収されやすくなります。


ところが、カノーラ油、大豆油とバターの3種類では、異なった特徴がありました。大豆油とバターは、3gと20gにおいて、カロテノイド類の吸収率の大きな差が認められましたが、キャノーラ油は、3gでも20gとほぼ同量のカロテノイドの吸収を促進したのです。従って、キャノーラ油からのカロテノイド吸収率を考えると、「バターなどの飽和脂肪酸を、少量のキャノーラ油などの不飽和脂肪酸に替えても、野菜からのカロテノイド吸収に影響を与えない」と言えます。


今後、この研究グループは、サラダとドレッシングだけではなく、タンパク質や炭水化物を含んだ食事と一緒に摂取したときの、カロテノイド吸収に関して評価する予定です。


というわけで、油の量を多くするとカロテノイドの吸収は上がるということですが、やはり脂肪分の取り過ぎが気になりますよね。大さじ一杯のバター(約13g)は、約100kcalです。一方、キャノーラ油大さじ一杯(約14g)は125kcalと、バターよりカロリーは高めです。ただし、今回の研究から、小さじ一杯(4g)、35kcalでも、カロテノイドの吸収率は20gと同じ程度だそうですから、一番効率よくカロテノイドの吸収がでるキャノーラ油を少量使う、というのが体に良さそうですね。


さっそく、今日から食事に取り入れてみませんか?


※1…α・β・γ-カロチンは体内でビタミンAに変わることで知られる。リコピンはトマトの赤い色素として有名。

※2…ゼアキサンチンとルテインは、ほうれん草などに多く含まれていて、体内では、目の網膜や黄斑部に存在する。卵黄の黄色はルテインによるもの。カンタキサンチンはきのこから発見された。その他、サケ・マスの赤い色素であるアスタキサンチンなどがある。

※3…摂取した酸素が変質してできる活性酸素などによって生体が酸化されるのを防ぐ作用。抗酸化物質とは「酸化されやすい物質」で、自身が優先的に酸化されることで、生体を酸化から防御してくれる。老化、がん、生活習慣病等に生体の酸化が関連していると言われる。

※4…加齢により網膜の中心部(黄斑)に障害が生じ、見ようとするところが見えにくくなる病気。欧米では成人の失明原因の第1位、日本でも高齢化と生活の欧米化により近年著しく増加、50歳以上の人の約1%に見られ、失明原因の第4位となっている。ただ、早く見つけて治療をすれば、ある程度の視力は維持できる。

※5…「21世紀における国民健康づくり運動」の略称。健康増進法(平成15年)に基づき国民の健康の増進の推進に関する基本的な方向や国民の健康の増進の目標に関する事項等を定めたもの。(現在のものは平成24年2次改正)

※6…脂質の材料で、エネルギー源として大切な成分。ラードやバターなど、肉類の脂肪や乳製品の脂肪に多く含まれます。常温では固体で存在するため体の中でも固まりやすく、しかも中性脂肪やコレステロールを増加させる作用があるため、血中に増えすぎると動脈硬化の原因となる。

※7…脂質の材料で、魚類や植物油に多く含まれ、常温では液状で存在する。エネルギー源や身体の構成成分となるほか、血中の中性脂肪やコレステロールの量の調節を助ける働きがある。オリーブ油に多く含まれるオレイン酸を代表とする「一価不飽和脂肪酸」は悪玉コレステロールを減らす働きがある。「多価不飽和脂肪酸」では、魚の油に多く含まれるIPA(イコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)、えごま油やなたね油などに含まれるα-リノレン酸を代表とする「オメガ3系脂肪酸」が、細胞膜の材料となり、中性脂肪を減らし、善玉コレステロールを増やすことで知られる。一方、大豆油やコーン油など一般的な植物油に多く含まれるリノール酸を代表とする「オメガ6系脂肪酸」も、体に必須で悪玉コレステロールを減らすが、反面、摂りすぎると善玉コレステロールも減少させてしまう。

※8…実験計画法のひとつ。n人の被験者にn種類の実験をするときに「n列n行」に配列し、どの列・行にも同じ実験が一回ずつ含まれるように配置したもの。すべての被験者に同じ実験を違った順序で行うことができる為、順序の効果を除けば、各被験者に平等の実験条件を与えることができる。

※9…セイヨウアブラナから取れる菜種油のうち、有害成分を含まないよう品種改良されたキャノーラ品種から採油されたもの。キャノーラ油は、オメガ3系脂肪酸とオメガ6系脂肪酸の比率が 1:2、残りの大半は一価不飽和脂肪酸のオレイン酸であり飽和脂肪酸は一割未満と、一般的な食用油として他に例を見ない理想的な比率となっている。日本では食用に菜種油が最も多く用いられている。

※10…大豆の種子から採取される油脂。最も代表的な植物油で、サラダ油の他マヨネーズやマーガリン等の原料などとして広く用いられる。国内では菜種油に次ぐ食用消費量だが、オメガ3系脂肪酸とオメガ6系脂肪酸の比率が 1:8程度とバランスには欠く。

※11…主として牛乳中の脂肪分を凝固させたもので、常温ではわずかに黄色味をおびた白色の固体。ビタミンAをはじめ各種ビタミンや栄養素を豊富に含むものの、全成分の80%は脂肪、特に飽和脂肪酸が全成分の51%、一価不飽和脂肪酸は20%程度、多価負飽和脂肪酸は3%程度にすぎないため、摂り過ぎによる動脈等、健康への影響が特に懸念される。

 
大西睦子(おおにし・むつこ)●ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。

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コメント

ドレッシングにも気をつけないとですね。

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