子供の塩分摂り過ぎと肥満

投稿者: | 投稿日時: 2012年10月04日 00:00

四方を海に囲まれ、誰もが醤油と味噌に親しんでいる日本。そんな環境が影響してか、私たちが意識しないうちについつい摂取過多になってしまうのが、塩分です。

中高年の間では「塩分過多→高血圧」というのが常識となっていて、日々減塩を心がけている人も多いようです。一方、意外と無頓着になってしまっているのが、子供たちの口にするスナック菓子やファーストフード、あるいはハムやソーセージなど食肉加工品の塩分ではないでしょうか。でも、それがもしかしたら子供たちの健康を損ない、将来に影を落とす原因となりえるなんて

・・・今回の「大西睦子の健康論文ピックアップ」は、そんなお話です。


【 子供の塩分摂り過ぎと肥満 】


2006年の厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、40~74歳の日本人のうち、男性の約6割、女性の約4割が高血圧※1といわれています。高血圧症になると、虚血性心疾患※2や脳血管障害※3などを合併するリスクが高くなります。厚生労働省の「健康日本21」※4によると、国民の血圧が平均2mmHg下がれば、脳卒中による死亡者は約1万人減り、循環器疾患全体では2万人の死亡が防げると推定されています。

http://www.seikatsusyukanbyo.com/guide/03.php


日本高血圧学会減塩委員会は、高血圧の予防のために、血圧が正常な成人に対して、食塩摂取を1日6g未満に控える食塩制限を勧めています。世界保健機関(WHO)は、世界の人の減塩目標を5gとしています。しかし、2010年における日本の成人1日あたりの塩分平均摂取量は、男性で11.4g、女性で9.8gと、目標を上回ってます。高齢になればなるほど高血圧の影響は大きくなりますので、若い頃から食生活に気をつけて、高血圧のリスクを減らすことが重要と思われます。


しかし、最近、加工食品やファーストフード、スナック菓子を食べる子供が増えたため、子供たちの塩分摂取量が増加しています。小児期に血圧が高いと、成人になってからの高血圧症を発症したり、若くして心疾患を合併し、亡くなる原因となります。


なお、「食塩」が槍玉にあげられていますが、高血圧等の真犯人は、その主な構成要素である「ナトリウム」という物質です。食塩は、理科で習った「塩化ナトリウム(NaCl)」とほぼ同じもので、食塩量=ナトリウム量ではなく、食塩の約40%がナトリウム量に相当します。

ナトリウム量(mg)×2.54÷1000=食塩相当量(g)


過去20以上の観察研究で、児童(12歳以下)のナトリウム摂取量と血圧には関係があることが報告されています。また、過去の10つのランダム化比較試験※5で、児童のナトリウム摂取量を適度に減らすと、血圧も下がることが明らかになりました。また12歳~成人以上については、ナトリウム摂取を減らすと、メタボリック症候群や肥満が改善されることが報告されています。しかし、20歳未満の子供について、体重とナトリウム摂取量および血圧の関係を調べた研究は、これまで限られていました。


今回ご紹介する論文は、米国における子供の、ナトリウム摂取量と高血圧および肥満の関係についての報告です。

Yang Q, Zhang Z, Kuklina EV, Fang J, Ayala C, Hong Y, Loustalot F, Dai S, Gunn
JP, Tian N, Cogswell ME, Merritt R.
Sodium Intake and Blood Pressure Among US Children and Adolescents.
Pediatrics. 2012 Sep 17. PMID: 22987869.


●方法

対象者は、米国国民栄養健康調査2003-2008に参加した8歳から18歳の6235人の子供です。被験者の普段のナトリウム摂取量およびカリウム摂取量、総カロリー摂取量の推計は、米国国立がん研究所(NCI)が開発した2段階方式を用いて、人種・民族や年齢も加味しながら男女別に行いました。


●結果:

8歳から18歳の米国の子供について、1日当たりナトリウムの摂取量は平均3387mgであり、37%が体重過多(overweight)あるいは肥満(obese)でした。平均ナトリウム摂取量は、年齢とともに増加が見られました。摂取量は、女性被験者グループよりも男性被験者グループの方が多く、肥満・体重過多よりも正常な体重の人が多い傾向がありました。人種・民族ごとに見た消費量は、非ヒスパニック系白人が一番高くなりました。調査対象者全体では、高血圧・高血圧予備軍の人は14.9%でした。


対象者の1日当たりナトリウム摂取量は1334mgから8177mgの範囲で、摂取量に応じて4つのグループに分類しました。対象の子供たち全員において、平均最高血圧は、ナトリウム摂取量の少ないグループが106.2mmHg、ナトリウム摂取量の多いグループが108.8mmHgであり、ナトリウム摂取量の多いグループの方が2.6mmHg高くなりした。特に、肥満・体重過多の子供では、ナトリウム摂取量の少ないグループが109.0mmHg、ナトリウム摂取量の多いグループで112.8mmHgと、ナトリウム摂取量の多いグループの方が3.8mmHg高い値が出ました。正常体重の子供は、ナトリウム摂取量の少ないグループが104.8mmHg、ナトリウム摂取量の多いグループで106.6mmHgと、ナトリウム摂取量の多いグループに1.7mmHg、平均最高血圧が高く出ました。1日1000mgナトリウム摂取量が増えることで高血圧・高血圧予備軍となるリスクは、肥満・体重過多の子供では74%も認められましたが、正常体重の子供は6%でした。


●考察

この研究により、ナトリウム摂取量が最高血圧と関係し、摂取量が多いと高血圧・高血圧予備軍のリスクが増えることがわかりました。さらに、肥満や体重過多の子供たちでは、この傾向が強いことがわかりました。


1989年にRocchiniらは、肥満の10代の子供の血圧はナトリウム摂取量の変化に特に敏感であり、この感度は、高インスリン血症※6および高アルドステロン症※7、交感神経系※8の高活性にも影響する可能性を報告しました。成人では、ナトリウム摂取量の血圧への影響が、体重過多やメタボリック症候群※9の人でより顕著になることが実証されています。


今回の報告では、正常体重の子供たちについてはナトリウム摂取と高血圧予備軍や高血圧のリスクとの間に特段の関係を認めませんでしたが、だからと言って、「高ナトリウム摂取は高血圧のリスクに影響がない」と解釈されるべきではない、と筆者らは述べています。


米国の2010食生活指針によると、2歳以上の子供は、1日のナトリウム摂取量は2300mg(食塩で約5.8g)未満とすることが推奨されています。特に、アフリカ系アメリカ人や高血圧、糖尿病、慢性腎臓病の子供は、ナトリウム摂取は1日1500mg(食塩で約3.8g)未満にとどめることが推奨されています。


しかしながら、平均的なアメリカ人の食事中のナトリウムの75%以上が、加工食品やファーストフードなどに由来し、アメリカの子供たちのナトリウム摂取量を減らすことは依然として困難な状況です。日本でも、子供の塩分摂取量が増えていると予想されます。、


生活習慣病による高血圧は、毎日の食生活で予防できます。子供の頃から、塩分の多い加工食品やファーストフード、スナック菓子ではなく、健康的な食事を心がけたいですね。


※1・・・最高血圧が140mmHg以上または、最低血圧が90mmHg以上の状態が続く疾患(高血圧症)。頭痛や肩こり、めまい、耳鳴り、のぼせ、動悸、疲れやすいなどの自覚症状がまず現れる。

※2・・・心筋梗塞や狭心症など、冠動脈が狭くなったりせき止められるなどして、心臓の筋肉への血流が阻害され、心臓に障害が起こる疾患の総称。

※3・・・いわゆる「脳卒中」のこと。血管が破れたり、詰まったりすることで脳の細胞に栄養や酸素が供給されなくなり、脳の機能に障害が起こる疾患の総称。脳梗塞や脳出血、クモ膜下出血など。

※4・・・「21世紀における国民健康づくり運動」の略称。健康増進法(平成15年)に基づき国民の健康の増進の推進に関する基本的な方向や国民の健康の増進の目標に関する事項等を定めたもの。(現在のものは平成24年2次改正)

※5・・・データの偏りを軽減するため、被験者を無作為(ランダム)に「処置グループ」と「比較対照グループ」(プラセボ群など)に割り付けて実施・評価を行う試験。

※6・・・血液の中のインスリンの量が多い状態が続く疾患。インスリンは血糖値の維持に不可欠のホルモンだが、十分働かない状態(インスリン抵抗性)だと、血糖値調整のためにより多くのインスリンが分泌され続け、結果、血中のインスリン値が高くなる。放置すれば、糖尿病、高中性脂肪症、高血圧症、動脈硬化などにつながる。

※7・・・血中のアルドステロンの濃度が高い病態。アルドステロンは、水分の貯留を促すホルモンで、尿から血中へのナトリウムイオンの再吸収を増加させ、カリウムイオンの尿中への排泄を促進する。過剰になることで、血液量、血圧、血中のナトリウムイオン、血中のカリウムイオンの濃度の調節が崩れ、高血圧、むくみ、低カリウム状態(筋力低下、けいれん、麻痺、不整脈など)を引き起こす。

※8・・・生命活動維持のために体の状態一定に調節している自律神経系のひとつ。体を興奮状態にする作用があり、体を活発に動かす方向に働く。(副交感神経がちょうと逆の働きを司っており、両者が一体となりバランスとっている。そのバランスが崩れて交感神経優位となると、呼吸数増加、血圧上昇、動悸、緊張状態、発汗などが見られる)

※9・・・内臓脂肪型肥満(腹部肥満、リンゴ型肥満)に高血糖・高血圧・脂質異常症のうち2つ以上を合併した状態。これらが多数重なると相乗的に動脈硬化性疾患(狭心症、心筋梗塞、脳卒中など)の発生頻度が高まることが知られている。


大西睦子(おおにし・むつこ)●ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。

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