意外?足並み揃えない欧州のワクチン政策

投稿者: 堀米香奈子 | 投稿日時: 2012年10月12日 06:11

昨日、「欧州製薬団体連合会(EFPIA)ワクチン・メディアセミナー 2012欧州・日本における予防接種スケジュールとその課題」に行ってきました。欧州での予防接種政策は、EU組織で新規ワクチンの承認などの大枠を決定するものの、残りの大部分は各国にゆだねられている、ということを知りました。ちょっと意外です・・・。


欧州から招かれたのは、パリ第7大学小児科教授のカテリーヌ・ヴェイユ=オリヴィエ氏です。欧州やフランスのワクチン政策に関する要職を歴任・兼任してきているとのこと。

日本からは、おなじみのお二方、まずは新潟大学大学院教授の齋藤昭彦氏の講演があり、最後の質疑応答セッションでは、不活化ポリオワクチン検討会座長の岡部信彦氏(川崎氏衛生研究所所長、前・国立感染症研究所感染症情報センター長)がここでも座長を務めました。


まずはオリヴィエ氏の講演です。同氏の講演では、欧州各国の予防接種戦略・政策・システムと実施状況について、概要が駆け足で説明されました。日本ではワクチンギャップなどが騒がれ、すぐに“欧米”に追随しよう、みたいな論調になりがちですが、一口に欧米と言っても実は中身は様々なんだそうです。足並みがばらばらなのだけれども、それが必ずしも問題ではないこと、むしろ強制はNGで、各国の事情と判断が尊重され優先されている、ということ。知っておいてもいいかも、と思いました。


それではさっそく講演の中身を要所要所、書き出してみます。


(EUが大枠を主導)

●EMA(欧州薬品庁):EUの組織の一部で、ヨーロッパの全ての医薬品・ワクチンの化学的評価を担当する。新規ワクチンの承認を行う。
●ECDC(欧州疾病予防管理センター):欧州の感染症の疫学的サーベイランス、分析、情報収集をになう。2005年設立。


(安全性についての現状)

●欧州では医薬品で最も重要視されるのが安全性で、2010年には新しい規制ができた。医薬品の安全性を欧州全土でモニターするシステムを導入。

●有害事象(予防接種後に発生した全ての事象)には、単なる偶然・自然発生的で予防接種と因果関係のない事象と、ワクチン接種が原因で起きた「有害反応」がある(要エビデンス)が、欧州の人々の間でもまだ理解が徹底されていない。

●人々は情報の透明性を求めており、新しいEMAのホームページでは、医薬品の安全性データへのアクセスを人々に広げている。ただし、副作用の疑いがあるもの全て=その医薬品は実は原因でない可能性もあり、そこで公表されている情報では、副作用の発生率や医薬品が有害か判断するようなことはできない。

●医薬品の承認・市販後のサーベイランスには、製造メーカーが行う市販後試験(長期間にわたる能動的サーベイランス、個別の有害事象がワクチン接種と有意に関係しているか評価できる)と、医療関係者・薬剤師からの自発的報告(受動的サーベイランス、報告のばらつきやバイアスの可能性があり、因果関係は同定できない)の2種類がある。

●市販後サーベイランスが必要な理由:稀な有害反応は、臨床試験段階では規模的にも発生するとは限らない。ワクチンロットと有害事象報告の因果関係の有無を同定することができる。世界レベルでの予防接種とそのプログラムの安全性の証明。

●ワクチンや予防接種に関する情報・教育について、メディア・インターネットの役割がますます重要。


(各国に任せられた政策)

●欧州ではワクチン政策は、各国に任せられている。ただし、どの国にもワクチン技術委員会が置かれ、新規ワクチンを国の予防接種プログラムへ採用するかどうか、推奨(または非推奨)について助言を行う。

●もし採用された場合は、接種対象や接種回数・間隔の決定、安全監視強化、疫学的フォローアップ等を行う。

●各国の委員会はお互いに連絡を取り合い、政策等について情報交換を行っている。

●大部分の国では「予防接種勧告」がある一方、いわゆる「予防接種プログラム」が存在しない国も珍しくない。

●予防接種プログラムを始めとする予防接種政策が、各国に強制されることはない。欧州委員会(EC)が調整約となったりある種のインセンティブを提供することはあっても、それはあくまで人々の健康を守り増進させるためであり、各国の法律や規制を他と揃えさせるようなことは禁じられている。(議定書第152条に明記)

●ドイツやイタリア、スペインでは、価格決定を含む予防接種政策は地域・州ごとに任せられ(分散化)、他方、スウェーデンやイギリス、フランスでは、中央政府当局が国内全ての地域について一括して取り仕切っている(中央化)。

●そもそもワクチン接種を「推奨」としている国と「強制(すくなくとも一部のワクチンで)」としている国がある。

●ヘルスケアシステムの提供形態そのものに違いがあり、予防接種は国の医療サービスとして行われるのが大部分だが、6カ国だけは民間による。具体的な形態も、クリニック、病院、学校など様々で、提供形態を加味してプログラムの評価も行われるべき。


(医療経済学的な観点)

●全ての国で、医療経済学は重視されており、費用対:benefit、efficiency、effectivenessなどが直接費用(医療にかかる費用)と間接費用(疾病による働く親の損失、社会的損失など)について計算され、ワクチンの必要性などが検討される。

●各国ともワクチン接種勧告やプログラムと保険償還が強く結びついていて、予防接種の公衆衛生学的メリットも評価して価格が決定される。

●結果、無料か有料か、いくらにするか、など国ごとにばらつきがある。ただし、子供は無料と言うのはだいたい共通している。


(予防接種率・カバー率)

●欧州のワクチンスケジュールは様々(量・回数・タイミング)だが、主要なワクチンの接種率を見るとおおむね成功している。29か国中、80%未満の国はなく、4カ国は80-90%、残りの25カ国は90%台。(ただしMMRやHPVワクチンは安全性について懸念が広まった影響があり、この中には入らない)
※麻疹の安全性問題についてはこちら

●ところが、細かく見ると、接種率が低い地域・集団、未接種かつ未感染で抗体を持たない集団、移民などの存在から、特に麻疹など伝染性の強い疾患について、流行が起きている。接種率の身ならずカバー率が大事。

●麻疹や百日咳については、罹患年齢の中央値が高まってきており(安全性への疑問が騒がれたことで低年齢時に未接種だった層など)、乳幼児のみの予防接種ではなく、例えば百日咳では10歳以上の子供や、麻疹でも2回接種の徹底やハイリスクの集団(特に医療関係者)への接種の推奨が進められるべき。

●それによって92-95%の集団が免疫を獲得するようにし、完全な集団防御(ただし根絶ではなくコントロール)を達成すべき。逆に言えば、小児に対する予防接種のみではこの数字は達成できない。


(EUの人々の間に存在する障壁)

●知識不足により、疾患の重篤性が認識できていない。

●ワクチンの効果に対する過小評価。あるいは、リスクの概念(有効な医療行為には必ず一定のリスクが存在すること)の理解が欠如していることによる誤解。

●公衆衛生的benefit※への影響は理解困難。
※医療経済的ベネフィットのみならず、富の前提条件、移動性の前提条件、社会的平等といった社会的価値も高い。

●製薬企業や政府への猜疑心。

●一部の集団では、医療へのアクセスが制限されている。

●宗教的・精神的な理由による反対。

●大部分の人はワクチンの価値を認識しているが、一定の少数派が疑念を持っている。(ちなみに、メディアやインターネットが発達しても、最も信頼されている情報源は医療関係者)


(今後の課題)

●欧州は高齢化が進展中。新しいヘルスケアモデルが必要であり、成人推奨ワクチンもより求められてくるだろう。

●感染症と貧困の負のスパイラルが生じている。ワクチンで打開すべきだろう。社会的平等をもたらす

●ワクチンに求められる役割が時代とともに変化(拡大)している。これまでは死亡や重篤化の恐れのある感染症を防ぐ目的が中心だったが、今後はさらに、生活の質の改善を目的として、頻繁に発生する軽度の疾患に対してもワクチンが求められるだろう。


⇒医各国はその国の様々な事情※を広く考慮して必要性(採用・不採用)を決定する。近年はより同じ方向性に向かっているとはいえ、使用ワクチンや回数・量・スケジュール等が国によってかなり異なる。
※政治的な制約、経済的制約、歴史・文化的な背景(ワクチンに対する抵抗感など)。課題としては、ワクチンのプログラムや接種勧告に際し、科学的議論が徹底されていないこと。


というわけで、欧州全体としての予防接種戦略は、対象がもはや乳幼児だけでなく、成人にまで広がってきている、ということらしいです。その点ではやはり、欧米がまだ先を行っていると言うべきですね。日本も早いところ主要なワクチンの定期接種化の問題をクリアして、高齢社会の更なる進展に対応すべきというわけです。確かに、実は医療費抑制にも有効かもしれません・・・。


ちなみに、まったくもって余分な話ですが、セミナーに行って改めてふと思ったのが、欧州の製薬会社の団体であるEFPIAが、「EFPIA Japan」という支部(?)まで作って、まさに戦略的に、着々と日本で“販促”を行っているんだなあ、ということです。


EFPIA Japanにはきちんとワクチン委員会があるようで、確かにプレスリリースにも、同委員会は「日本で承認されていない革新的なワクチンや世界で広く使用されているワクチンを日本にできるだけ早く導入することを目指して 2006 年に発足し、海外のワクチン政策の成功事例等を紹介することで、日本における必要なワクチンの普及と公衆衛生に貢献するべく活動しています」とあります。今回も欧州から専門家を招き、英語⇒日本語、日本語⇒英語の同時通訳もつき、席に着くなり淹れたてのコーヒーが一人ひとりに運ばれてくるなど、やはりそれなりに気合(=お金?)が入っています。(ちなみに配布資料を見ると、今回のセミナーで全体の進行役を務めていた「EFPIA 広報委員会 広報委員長」の喜多英人氏の連絡先は、「ノバルティスファーマ」となっていました・・・。“さすが”です)


もちろん、予防接種を受ける・子供に受けさせる身にとっても、正しい情報が得られるのなら、悪いことではありません。そういう意味では、ワクチンを作っている企業も、予防接種を受ける側も、結果としてWin-Winになればいいんだよね、とは思っています。


さて、後半の齋藤氏の講演と質疑応答のメモはまた後ほどアップします。

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