現場からの医療改革推進協議会(ポリオワクチンセッション)その2

投稿者: | 投稿日時: 2012年11月14日 11:58

先日の「第現場からの医療改革推進協議会第7回シンポジウム」について、前回に引き続き報告します。今回は、ワクチンデモ実行委員長の吉川恵子氏と、元PMDAワクチン審査官の谷本哲也氏の講演のまとめです。

まず吉川氏は、仕千葉県保険医協会事務局次長という事上、地元の開業医とともに、母親の立場からワクチン問題に取り組んできたとのこと。


●VPDをワクチンで防ぐのは世界の常識。世界標準のワクチンが導入されていない・定期接種化されていないことに大いに不安。1日も早くVPDで苦しむ・命を落す子供がいなくなるように、この事実を世の中の人たちに知らせよう、と考えてワクチンデモをおこなった。


●初回は2010年、今年で3回目。3回目は専門家、患者会、個人の参加者があり、16団体100名。六本木から日比谷公園まで一緒に練り歩いた。今回は特に、ヒブ、小児用肺炎球菌、HPVワクチンについて、国がようやく特例交付金を設け、多くの自治体で無料接種できるようになったと喜んでいたところが、実は東京都の多くの自治体でまだ料金を支払わねばならない実態が続いている、つまり子供たちの命に格差が生じていることを訴えたかった。


●例えばHPVの特例交付金については、国が都道府県を介して45%交付し、地方交付税として市町村にも45%交付することで、全体の90%を公費で賄えている。幸いにも千葉県では全市町村が家計負担の10%分も、全額、負担している。しかし、東京都では、地方交付税分と家計負担分を併せた55%分について、多くの接種費用(自己負担)が生じる事態になっている。


●どうして自己負担が出るのかというと、その根拠となっているのが予防接種法第24条。保護者などから「実費徴収をすることができる」という規定がある。ただし、定期接種については多くの自治体では実費徴収しておらず、現在のところ無料で接種が行われている。しかしこの規定がある以上、今後、多くのワクチンが定期接種化された時に、市町村の財政事情によっては実費徴収(お母さんたちの負担)という事態もありえるのではないかと、非常に危惧している。

⇒予防接種法の改正が必要ではないか。


●昨年度の3ワクチンの接種状況(接種率の取り方は、どの時点で取るかなど難しいものがあるが)を見ると、東京とは全国の平均から比べてどのワクチンも接種状況が低い。ちなみに千葉県の昨年の接種状況は、ヒブで43%、小児用肺炎球菌で48%で、全国平均を上回っていた。


●東京保険医協会の森田さんが、接種回数と自治体の費用助成の状況を細かく調べてくれたのだが、全額助成をしている自治体(区、市)ほど接種回数が多くなっている。

⇒予防接種費用はお母さん方には高く、無料であるほど接種がしやすい(接種率が高くなる)。


●予防接種法上、予防接種は自治事務となっているが、自治体の経済状況やこれでは首長の判断によって、地域・経済・情報に格差が生じる。子供たちの命に格差が生じている。

⇒国は安定財源を確保し、保護者の負担をなくして、とにかく接種率を上げることに視点を置いて政策を作ってほしい。


●ワクチンは医療経済性が非常に高いと聞いている。接種率を上げることは医療費削減につながるのだから、予防医療として全国共通のシステム、たとえば健康保険に組み込むなどの対応が急がれるのではないか。


●そのためにも、国民一人ひとりが子どもたちの命を守るために声を上げていかねばならないと思う。

⇒そこで、細部氏の話にもあったとおり、三井厚労大臣に法改正を求める要望書を8団体で、共同で要請してきた。(三井大臣からは、速やかに国会に提出して対応したいと前向きな回答)


●その後の記者会見での、ムコネットtwinkle days(ムコ多糖症患者会)の中井さんの発言:「疾患によって治療薬や長期入院のためにやむなくワクチンが打てないお子さんがいます。接種率を上げることによって、そういう子供たちの周りの感染症をブロックすることで、その命を守ることが大事なのではないか」。つまり、一生懸命闘病しているもののインフルエンザなどで命を落してしまう子供がいるが、集団免疫を上げるために、接種率を上げることが必要。そのためにも無料化することが必要ではないか、ということ。


●予防接種は国民の健康を守る重要な課題。自治体任せのままでは地域間格差が生じる。接種費用だけでなく、総合的な安定的財源をどうするのか。施設間格差をどうするのか。総合的に、国の責任で実現するように、これからも強く要望していきたい。


●そのためにも一日も早く予防接種法案を提出していただきたい。たぶん来年の通常国会になるかと思うが、そうなると現行3ワクチンの特例交付金事業が24年度末までなので、せめてこの制度に空白を作らないよう政治判断していただきたい。そう願って大臣と会ったところ「作らない」と大臣はおっしゃっていたものの、今の段階で法案も通っておらず、3ワクチンの予算も出てきていない中で、本当に来年度どうなるのか。母親の一人として不安に感じる。


●国民自身がワクチンのリスク(ゼロではない)と、疾患を防ぐ利益の両方の情報を正しく理解し、考え、能動的に接種をする選択をしていくことが大事ではないか。これからも世界標準のワクチンを届けられるように行動していきたい。


最後に、PMDAから現場に戻られた谷本氏の講演です。日本の予防接種行政のおかしなところについて、ウィットに富んだ発言の連続で、会場からは終始笑い声が上がっていました。ちなみに、谷本氏の昨年のコメントはこちら


●昨年までPMDAの審査官だったが、地震(東日本大震災)があって、はっと目が覚めて「こういうことをしている場合じゃない」と現場に復帰した。そのときの経験を踏まえて話をしたい。


●がんセンター研修医時代から、ドラッグラグ・デバイスラグについておかしいと感じていた。ただ、薬害事件はPMDA・厚労省が最も恐れていること(「首が飛んじゃう」から)であり、そのたびに薬事規制が重ねられてきたという背景がある。予防接種についての日本独特の規制も、同じような背景がある。例えば戦後すぐのジフテリアの予防接種の副作用問題。


●実際、そうした規制によって未然に薬害が防がれたケースもある。例えば、ロタワクチン第一世代の腸重積の問題。海外で先に承認されていたが、規制によるドラッグラグのせいで被害が起きずに済んだ。


●日本人の有効性・安全性はかたくなに見ないといけないと強く考えられている。IPV承認プロセスがその典型


●PMDAでは、「コストなんて下賎なことは考えちゃダメだ」と、治験に関するコスト・時間はまったく考慮しないよう叩き込まれた。「純粋に治験デザインを考えることが科学的なんだ」と。


●ポリオについては、1961年にOPVが導入され、64年に国内生産開始(日本ポリオ研究所)、81年には野生株は終息、以後はポリオ感染によるマヒはOPV由来となってしまった。今回日本で承認された単独IPVであるイモバックスポリオ(ソーク株)は、82年にフランスで承認されたもの。それから30年かかってやっと日本でも承認されたかたち(車に例えたら、30年前に発売されたルノー車がようやく日本で大々的に発売されたようなもの)。すでに世界中で使われている。


●日本で承認するのがなぜそんなに遅いかと言うと、申請主義(申請なければ承認もない)と、国債メーカーが参入できないのが不文律としてあること。


●ただし、今回は申請してから承認まで2ヶ月であり、異例の早さ(「やればできる」と)。しかも治験の中間解析段階で申請、承認が出た。普通は試験が最後まで終わらないと申請も出来ないのだが、とにかく「途中でも出せ」と。世界では2.7億本打たれてきているワクチンだがそれでは承認するわけにいかず、一方、今回、日本ではわずか74例で商人となった。とにかく日本人で治験をやらないとダメ。手続き論が優先されている(論拠として、海外では筋肉注射、日本では皮下接種、ということはあるが・・・)。


●国産IPVは2012年、世界初のセービン株IPVではあるが、これもわずか200~300例規模の第Ⅲ層試験で承認となっている。(海外でいくら有効性と安全性について実績を積んでいても海外ワクチンは承認されないのに、一方「これだけのデータでも、日本の中小企業の開発だと承認してしまう」)しかし、過去、MMRワクチンなど1200例に1例くらいの割合で副作用が報告され回収さているので、個人的にはこれだけの規模の安全性しか見ないで承認されるのは問題ではと見ている。実際問題、日本の企業から出てくる治験の規模はこれくらいでしか出来ないので、「これでやっちゃう」、ということ。


●この話を書いたところ、ヨーロッパのLancetという医学雑誌に掲載された。普通、「なかなか載せてくれないのだけれど」、やはりこの話が載るということは、グローバルスタンダードからすると日本の規制と言うのは「ちょっと不思議なことが起きている、東洋の不思議、だと。珍しがって載せてくれるのだろう」


●この業界では「レギュラトリーサイエンス」がすごく流行っていて、それはまあよいのだが、疑似科学になっているというか、行政の都合だけを一方的に言っているだけなので。サイエンスは干渉可能性がなければならない。業界の人たちにもがんばっていただきたい。


●(出身地である鳥取県の農村の写真を示して)日本独自のことをやるのはいいが、今の状況を見ていると、産学官のワクチン村の公共事業的になっている。それを守るための制度になっている。そもそも国民にできるだけ有効・安全なワクチンを提供するという優先順位が狂っているように思う。製薬・ワクチン分野を欧米が世界を牛耳っているのは認めるしかなく、その中で日本がどうやっていくのかは、もうちょっと考えなければならないだろう。


以上で講演は終了ですが、このあとの質疑応答も個人的にはかなり面白かったので、次回アップします。

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