現場からの医療改革推進協議会(予防接種セッション)その3

投稿者: | 投稿日時: 2012年11月15日 10:08

前回前々回に引き続き、第7回現場からの医療改革推進協議会(予防接種セッション)の報告です。予定されていた講演内容は前2回でお伝えしたとおりですが、その後さらに会場を交えたコメントのやり取りが続きました。予防接種政策・行政に関して、特にワクチンの導入や無料化について、現実的にどうやって攻略していくか、やってきたか、という具体的なところまで話が及びました。

大変面白かったので、出来るだけ元の発言の通りに書き起こしていってみます。

==ここから==

細部:
追加発言させてください。一般の町医者がこうやって困っているんですというお話を小児科医会や小児科学会でして、それをきちんと提言として大臣クラスに伝えているのに、この国では何も変わらないというのを本当に不思議に思っています。三井大臣も「やります。予防接種法を変えていきますよ」とおっしゃって、厚労省も大丈夫ですと言っても、結局は財務省など他の部署との調整をしたのが日本小児科医会の会長だったりして、それでもきちんと根回しをしてくださって、それでも何も変わらない。

どうしたらいいの? という時に、やはり、医師たちが声を上げていても、国民の皆さんが何も言っていなければ、行政は動いてくれないわけです。ということで、吉川さんたちが持っている力の方が結局は非常に有効なアクションで、そこから世の中を動かしていけたらと思っています。今日はマスコミの皆さんがいるということで、こんなに現場が疲弊しているんだ、ということを示せればと思います。ただ国会をどうする、予算をどうするというのは私より吉川さんのほうがよく知っているのでは。

吉川:
私はエキスパートではないので、どういうアプローチがいいか、土屋先生にもHPVの導入の際に色々な方々と精力的につながりあって制度化されていったことを伺いました。そのように私も勉強させていただいて何かできないかと声を上げたんですが、先生方、こういう事態のときはどうしたらよいでしょうか。

土屋了介(がん研究会理事、元国立がんセンター中央病院病院長):
今すぐに具体的には出て来ないですが、あらゆる方向にアンテナを巡らせて、それをつなげてネットワークを作らねばならない。それをどうみんなの広い声として訴えていくか。

HPVが成功したのは、当時、電通の成田名誉会長が、たまたま私の患者になったんですね。お金がないのだけれど、と言ったら手伝ってくれて、彼が仁科明子さんをセットアップしてくれた。もちろん寄付金で集められるものは集めて納めました。そうしないと、タダほど後で怖いものはないので。そうやって何か仕掛けをやっていくこと、国民の声だ、っていうフリでもいいからして、国会に持っていかないとね。もちろん、あれは国民の声でもあったから決してフリではないのだけれど。さっきのワクチンデモも、マスコミの方はあの写真を100万人くらいの規模に見えるように撮っていただくとかね(笑)。なにかそうやってネットワークが必要。今日がそのきっかけになってくれれば、私も千葉まで行った甲斐があったというものです。

それからこれは宣伝になるけれど、私もロータリアン(ロータリークラブのメンバー)なんですが、世界中のロータリーが「エンド・ポリオ・プロジェクト」をずいぶん前からやっています。ポリオ根絶のために2億ドルを集めたら、ビル=ゲイツも自分で2億ドル出して、さらに足りないとなったらまた追加で出している。世界では「子供のために」と言う方がたくさんいて、日本でもそれくらいの運動に持ち上げていく必要があるでしょう。私も、低開発国でもIPVが使われているのに、何で日本の子供たちに戻ってこないんだとずっと不満に思ってきました。これからも応援していくので頑張ってください。

上昌広(東大医科研特任教授、現場からの医療改革推進協議会事務局):
ちょっといいですか。3~4年前のこの協議会に国会議員が押し寄せて人が入りきらないくらいになりました。理由は簡単で、仙谷さんが来ていたから。「俺は仙谷さんに会いたいんだ」というような議員がたくさん来ていた(笑)。当時は今とは与野党が入れ替わっていたので予算を仕切れたんです。子宮頸がんワクチンは、あの時の話。

ただ、あの時の我々の教訓は、与野党ひっくりかえしても医療費つまり診療報酬は200億円しか増えなかったこと。これはあかんと。それで次には、子育て手当てを流し込まないと、と言って、GSKなど様々なメーカーが頑張ったんです。もう一つは、成田市や浦安市など、金持ちの自治体に行きました。彼らは率先してやりますから。というのは、今は政府には金がない。頼んでもできっこないんで、政府がお好きな方は行かれたらいいんですが、費用対効果がめちゃくちゃ悪いんですね。

で、この1~2年、今なら神奈川県庁、もっと厳密に言えば神奈川県知事に行ったらいい。というのは、今度のポリオは黒岩さんがやったんです。面白い経緯があって、彼は個人輸入を知事になって最初の目玉としてやることにしたんだけれども、どこかでリークがあって、全国版でなくて神奈川版で出ちゃった。あちゃーと。どうやって盛り返したかというと、当時の厚労大臣が「神奈川県けしからん」と言ってくれたんですね。勝手なことしたら処分するぞ、って。で、一気にブレイクして、すべてのメディアが飛びついた。重要なことは、国民が知ったら、おかしいことは「おかしい」と言い出すんですね。そうしたらわずか数カ月で承認しちゃって。

政府にこんなこと言っても、厚労省にいくら言ってもしょうがないんです。やれるものならやってる、って。彼らのレベルが高いか低いかは別として。財務省に言ってもないものはないんです。生活保護手当てを切ってる横で、ポリオの予防接種にお金がつくわけがないんです。それと同じ感覚で、たぶん自民党が政権とっても財源増えないので、同じなんですね。

財源あるところしか受けないんで、今この問題に関心があるのは、私たちの中で、黒岩知事なんです。悲しいかな、神奈川県はメディアがなくて、地元紙がなくて、東京の新聞の端の方にいるんです。東北なら華北新報が書くし、九州なら西日本新聞が書くんですが、神奈川は地元紙がないから、何やっても皆さん知らないんですよ。だからジャストナウ、今行くなら神奈川県です。

村重直子(東大医科研特任研究員、元厚生労働省大臣政策室政策官、医師):
今、小児医療を無料で提供している自治体はかなりたくさんあります。その財源を任意接種の費用に回すというのが、小さなポイントではありますが、現場の現実路線の話として考えられると思います。

今の状況は、任意接種はかなり費用がかかる、でも病気になった後に医療機関に行けば無料で診てもらえる、ということで、お母さんたちに「ワクチンは受けなくてもいいよ、その代わり病気にかかってから病院に行けばタダで診てあげるよ」という間違ったメッセージになっています。一方で、その病気に対して直す方法(特効薬等)が実はないんだ、しかも、ともすれば命も落すかもしれない、ということが伝わっていない。

乳幼児の医療費を無料にする財源が今あるのであれば、それをワクチンに回すことは、それぞれの自治体の中でそれぞれ方針を立てながら出来ること。吉川さんもあれだけのデータを集めるパワーがあれば、それくらいできることだと思うので、ぜひ頑張ってみていただきたいです。

細田:
今日は成田市の議長もおいでになっています。

上:
宇都宮さん、ぜひ一言。

宇都宮高明(成田市議会議長):
そうですね、今、上先生がおっしゃったように、ないところに行ってもしょうがない。なぜかと言うと、地方分権一括法とかいう良い名前で言われますが、あれは国に金がなくなったから地方でやれ、という、これはもう間違いない。私は生まれは愛媛の宇和島ですが、2004年の地方分権一括法以前は、成田であろうと宇和島であろうと、国家がずっと同じ基準で全部やっていた。しかし残念ながら国にお金がもうない、と。

成田は国家がお金を切ろうと、ワクチンのお金を有料にすることはしないと思いますが、そのように、やれるところで突破口を見つけるというのが、これからのスタイルだと思います。この間も上先生の紹介でシカゴ大学の中村祐輔先生にお会いして来ましたが、日本の現状とこれからを非常に嘆いていらした。でも、日本全体であまり「大変だ大変だ」と言っていないで、成田でどこまでできるか分かりませんが、やれるところは手をつける、と言う形で、政策のどこかの切り口を見つけていく、という必要性はあるかと思っています。

細部:
財源のお話が出ていましたので付け加えますが、日本小児科医会で、小児保健法の制定に向けて動いていますが、その中で予防接種の無料化と言う言葉が入っています、ということ。それから、今の社会保険の方でやっていったらどうか、と言う話も、そのように動いていったらいいかと思います。

鈴木寛(参議院議員、現場からの医療改革推進協議会事務局):
今、言おうかと思ったら上先生に言われてしまったんですけれども、やっぱり私も同じ方法論を考えていて、法律制定については全面的に頑張ります。頑張りますけれども、ここは現実的にお話をした方がいいかと思います。

「予防接種の無料化」と我々が法案に書きますよね。そうして議員立法で、自ら書いて法制局に手伝わせてやること、そこまでは可能なんですよ。しかし、いよいよ財務省折衝という段階で、「無料化に“努める”あるいは“努力する”」という文言が入るんですよ。それを入れるんだったらOKです、というわけです。で、ないよりあった方が予算折衝の段階で、おおいに、おおいにプラスなので、そこで手を打って超党派で通す、というところまではできます。しかし最後は予算折衝という話になっちゃうと。これが現実なんですね。

その連続連続なので、やっぱり、メディアを味方につけることが非常に重要で、当時だったら仙谷さんと財務省の対決という構図が非常に面白かったので、これでメディアの注目も集まり、国民の支持も集まり、やることができました。医療費が13%増えたり、ということもできた、と。しかし残念ながら仙谷さんは今ややゴニョゴニョ(聞き取れず)なので。

そういう意味では黒岩さんは自ら予算編成もできるし、神奈川・・・要するにこれはオセロと同じで、これは村重さんの“村重理論”なんですが、文京区がやり、どこそこがやり、23区のうち12区までがやったら、一気に残りの11区はひっくり返ります。だから今5だったら、残り6、7、8・・・10をどうやっていくのか、これは個別撃破した方がいい。

一方で、区の運動はどうなったかというと、上先生が有志の区議会議員の勉強会をやり続けている、と。特に市部なんかはもう5年くらいやり続けている。1回、間に選挙を挟んで、その時の公約にも掲げている。それをとにかく毎議会、毎議会やり続けることで、今、ゼロが3まできた。これをあとどうやって7にしていくかという議論になるが、これは財政力のある区、あるいはきちんと費用対効果の分析力がある区をターゲットに決めて、そこで一番賢そうな区議会議員を見つける、と。

要するに上君の言うことをちゃんと理解できて、なおかつ5回10回と勉強会にちゃんと参加する議員を見つける。政治家は通常、頭だけ来て上先生の名刺をもらって写真だけ撮ってあとは帰る、逃げますからね。だからそうではなくて、最後までちゃんと授業を聞き続けると。ここに鈴木けんぽう君という渋谷区の区議がいますが、彼はきちんとやったからこそ今、渋谷区はああなっている。

こういう運動をもうあと固有名詞で勝負するしかない。一般論はもういいんですよ。そうやってどんどん勝負していくと23区がひっくり返ると。23区ができたら、今度あとは三多摩です。あとは神奈川は黒岩さんを使って全面的にやると。だから、こういう個別アクションプランを、この3カ月は集中してこの区議会、あるいはこの県、例えば長野県の知事は理解がありそうだと思ったら、集中してアプローチする。

関心のない知事の所へ行っても全くダメですよ。私は47都道府県の知事の性格、それから医療リテラシーがどの程度かも大体分かっているんで、例えば次は新潟を攻略するとか、これはいい意味ですよ。というようなことをやっていく、と。だから成田市は非常にいいんだけれども、千葉県を攻略しようとしてもなかなか難しいので(笑)。というような個別論をみんなで考えてやっていくと。具体的な固有名詞は後で皆さん相談しましょう。今日はメディアが入っているんで。

細田:
本日はどうも皆さんありがとうございました。

==ここまで==

と、いうわけで、根気よくお読みいただいた方には、なかなか面白いやりとりをお楽しみいただけたかと思います。かなり引っかかるのは、議員立法なのになぜ財務省折衝を通すのか、ということ。そんなフィルターを通すんだったら結局、官僚が作るのと変わらないことになると思うんですが・・・。いずれにしても、行政も世論の動きは気になるようですから、土屋氏の言う通り、フリでもいいから世論を“創る”ことが必要なんでしょうね。

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コメント

子宮頸がんワクチン導入時の戦略の一端が垣間見える面白い記事。

仙谷元衆議院議員、 黒岩神奈川県知事、上昌広東京大学医科学研究所特任教授 この三人が2012年から関わっている、この三人が導入時からキーマンなら、今も、上昌広が推進派の急先鋒で、その拠点が神奈川県である意味が理解できます。

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